「もも!」
静粛な廊下に反響する、私の名前を呼ぶ声。
大教室から出てきたハイジが、なんだか興奮しながら私に近寄ってきた。
「何よ……っていうか、何なのよあの人!あんたね、私に何の恨みがあんのよ!!楽しい!?私をこけにしてイジめて楽しいの!?笑い者にしたかったんでしょ!!そうよね、私はどうせあんたにとっちゃ石ころだもんね!?」
「バカ、お前声でけえって。悪かったよ、お前なら何とかなるかもって思ったんだ」
今が授業中だということも忘れて喚いていたことに気づいて、私は慌てて口を噤んだ。でもハイジを睨んで、イライラをぶつけておいた。
そんな私にハイジは申し訳なさそうにしてたけど、どこか嬉しそうなのはなぜなんだい。
「ももちゃ~ん機嫌直して?石ころじゃねえって。可愛いよお前は、タマよりはさ~。な?」
う、嬉しくねえ!!なんで比較対象が犬なんだ!
「いや~マジやべえな……ジローちゃんが女と目ェ見て話すなんてよ……」
しみじみしている緑くん。なんか自分の世界に入っちゃってるけど、意味不明だわ。
「ねぇ……さっきから何なの?白鷹先輩が女の子といるのが、そんなにすごいわけ?」
「……いいかもも、今から言うことは誰にも言うなよ?お前にはこれからジローちゃんの世話をしてもらわねえといけねーから、特別に教えといてやるよ」
……は?世話?世話って何!?
ちょっと、私をどうする気なの!?
ハイジは周囲に誰もいないか確認すると、腰を屈めて私の耳元に顔を寄せた。
わ、近すぎて変にドキドキしてしまうじゃんか……!
「ジローちゃんはな、女嫌いなんだ。それもハンパねえよ、スジガネ入りだ。天敵なんだよ、女はな」
「えっ、あ、あんな綺麗な男の人なのに!?とてつもなくモテるでしょう!?」
「ああ、うじゃうじゃ女が寄ってきやがる。だからそーいう女をジローちゃんに近づけねえために、俺達が気をそらさせてんだよ。わざわざ女に言い寄ってよォ。めんどくせえったらねーよ。ま、ケイジは楽しんでるみたいだけどな」
「へ、へぇ……」

