気まぐれヒーロー




「ケイジくん、私……」



太郎さん、ごめんなさい。


私のためを思って言ってくれたのに。


私の中で、答えは出ました。



けれどそれは、太郎さんの忠告を受け入れなかったことになる。



でも、それでも私は






「私、みんなの仲間になりたい……!!!」






自分でも、こんなことを口にする日が来るなんて──思いもしなかった。


今の私の気持ち。

私の、望み。

それを知って欲しかった。


人の繋がりを……なかったことになんて、できない。

たとえ太郎さんに頼んで彼らとの縁を切ったとしても、それは本当の意味で彼らと私の間にあったものを無くせるわけじゃない。


ただ、“なかったこと”にして生きていくだけ。


見ないフリして、知らないフリして

思い出だけを抱えて過ごすなんて、嫌だった。


ジローさんのことも断ち切れなくて

ハイジへの疑いも消えなくて

みんなを、信じられなくて


でも、だからこそ信じたい。


信じたいからこそ、ちゃんと形にしたかった。


私と彼らの曖昧な関係を、はっきり表せるような言葉が欲しかった。




“みんなの仲間になりたい”




それが私の精一杯の、決意。

そして覚悟でもある言葉だった。




「やっとやな」




沈黙を守り、静かな瞳で、私の声に耳を澄ましていたケイジくんは……ゆっくりと口を開いた。




「ずっと……待っとった」




口の端を妖しく持ち上げ、私へ向けられる彼の笑みは、どこか胸に言い知れようのないざわめきを残す。

彼の大きな体越しに差し込んでくる夕陽の眩さに、目を細めた。




「そう言ってくれんのを──」




これは、私が望んだこと。





「ずっと待っとったんや」




なのに、どうして不安になるの?


ケイジくんの、優しい瞳。


優しく“見せかけた”その瞳の奥に……

野生の影が潜んでる。


爪を研ぎ澄まし、牙を剥き出しにして、私を捕らえようとしている。


いや、すでにこの瞬間から──

紅い獣に、私は捕らえられている。



もう逃げられない


引き返せない



後戻りは、できない。






“鴉が復活する日も近い”






微かに、そんな彼の声が、聞こえた気がした。




私はこの日──



獣の世界に、足を踏み入れた。












『気まぐれヒーロー』

【第一部・完】