気まぐれヒーロー




「ごめんな、怖かったやろ……痛かったよな。もうちょい早く出てきてあげたかったんやけど」


ケイジくんは、心底申し訳なさそうに眉尻を下げて謝ってくれた。


「でも、ももちゃんに知ってほしかったんよ」


この人……どこまで考えてくれてるんだろう。


わかりにくいけど

もの凄く、わかりにくいんだけど

やり方が多少、手荒かもしれないけれど


私のために、彼は動いてくれている。


短期間で、“私”を見抜いてる。


この人、底が知れない。



彼を印象づける“赤”が、私の瞳の奥に焼き付いて、離れなかった。



「一人でどうにもできんのやったら、誰かに頼ったらええ」



ぼんやりと赤色に目を取られている私に、ケイジくんは強い口調でそう言い切った。


その言葉は、私の胸に強く響いた。


私に向けられる彼の瞳も、深く澄んで、凛としていた。


「人に頼ることは、悪いことやない。弱いことでもない。周りに迷惑かけたくないってのも、わかる。でもな、それが逆に心配かけてんのもわかっといたほうがええよ」


ケイジくんの眼差しが、私の隣にいる小春を捉えた。


彼の言葉は私だけじゃなく、小春の気持ちを悟ったうえでの言葉でもあったのかもしれない。

私も小春へと視線を移せば、彼女は遠慮がちに笑みを抑えた。


「私……何やってもダメで、何もできなくて頼りにならないけど……でも、ちょっとは頼ってほしいなって思うんだ。話聞くくらいなら、できるから。それでももちゃんの負担が減るかわからないけど、少しでも楽になるのなら……力になりたいの」


睫毛を伏せ、言葉を慎重に選びながら話す小春の様子に、きっとこれは彼女の本音なんだろうと思わされた。


こんな風に話しづらそうにする彼女を見たことがなくて、今まで我慢させてきたんだろうって、ようやく……知ったんだ。


「ももちゃんは、私の大切な友達だから」


柔らかく微笑む彼女を前にして、私は自分の過ちに気づいた。


私は小春に余計な心配させたくなくて、関わらせないようにしてきていた。

小春は繊細で、壊れやすい心を持っていて、すぐに泣いちゃうからって。


だから彼女が不安になるようなことはあまり話さないように、変な気を遣ってたんだ。


でもそんなの……本当に友達って言えるの?

本心でぶつかってこなかった。
何だって一人で、解決しようとしてた。

小春には私の弱いところ、見せたくなかった。

くだらない意地と見栄を、張ってた。


けど、おかしいよね、こんなの。


私が彼女に何も話さないことで、彼女を苦しめてた。

あの可愛い笑顔の裏で、悲しい思いをさせてた。


話して欲しかったよね……?


ひたむきに、健気に、小春は私を信じてくれていた。