気まぐれヒーロー




そしたら、



「おあっちゃああああ!!」



たこやきプリンスが、カンフースターになった。


「いつつつ……カッコつけるもんやないなあ」


ふーふーと、手に息を吹きかけるプリンス。

どうやら、タバコに焼かれた手の平が痛かったらしい。

せっかくカッコよかったのに、ヒーローは最後までヒーローじゃいられなかった。


「あ、あの、コレ……使ってください」


そんなちょっぴり残念なプリンスに、小春が何かを差し出した。


「お、便利なモン持ってるやん」


ケイジくんはソレを受け取って、「あんがとな」と小春に笑いかけた。

小春が渡したのは消毒液で、彼女は普段からよく転んだりして怪我をしやすいので、消毒液と絆創膏を常備しているのだ。



「……ケイジくん、いつからいたの?」



応急処置をしているケイジくんに、私は一つ質問を投げ掛けた。

気になってたんだ。


だって、いくら何でもタイミングが良すぎる。

彼が赤レンジャーとはいえ、テレビドラマじゃないんだし、ましてやこれは特撮でもないんだから。

おかしいと、思った。



「ん~?ももちゃんらが来る前から、ずっとおったよ」

「え!?じゃあどうしてもっと早く、ももちゃんを助けてくれなかったの!?」



私が口を開くより先に、小春が噛みつきそうな勢いでケイジくんに身を乗り出す。

ケイジくんは小春に責められ、ほんのちょっとだけ困ったような目をした。
けれど、すぐに大人びた表情へと落ち着く。


「そら、ぷりちーなおねーさんが来たからやん?」

「……?」


フザけたような彼の回答に、小春の瞳が不審そうに曇る。

おっとりしていて滅多に怒らない小春なのに、ほんのり怒りの色が見えるほどに。

それでもケイジくんの調子は、そのままだった。



「ももちゃんは頑固モンやからなあ……一人で抱え込むやろ。ちょうどおねーさんが来てくれて、よかったわ。トモダチが絡んだら、我慢するわけにもいかんやろ?」



ああ……そうか。

そういうこと、か。


ケイジくんはわかっていたんだ。

私だけだったら、彼にあんなことを決して言わないと。



“お願い、助けて……!!!”



私一人なら、助けを請わずに耐え続けていたことを。


だけど、小春が来たから。

彼女が悲惨な目にあうと知ったら、私が必ず自分に救いを求めてくるだろうと。


わかっていたんだ、全部。


だから校舎の影に身をひそめ、じっと待っていた。


小春が私の身代わりになり、取り巻きと男達の手に堕ちそうになる、そのギリギリまで。

私が追い詰められて、絶対に頼ってくると確信するまで──


その最高の機会を……彼はずっと、狙っていた。



“──関係ないわ”



あの一言も、私にそうさせる最後のダメ押しだったんだ。


彼にとっては何もかも、計算済みだったということ。