気まぐれヒーロー




この子……どこかで見た、ような……。


もうちょっとで思い出せそうなのに、出てこない。

何ともいえない、このモヤモヤ感。


どこで見たんだっけ……

どこで……

…………


そうだ。

ここだ。この場所で、彼女を見た。


ケイジくんと初めて出会ったとき、彼と一緒にいた女の子。

彼とその、まあ、深~いちゅーをしていた子だ。


モヤモヤが晴れて、スッキリしたっていうのに。



「誰やお前」



ええええええ!!


ケイジくんは顔をしかめながら、鬼畜な一言を放った。


私が覚えてたっていうのに、あんた!!

あ、あんなことをしておきながら「誰や」はないでしょ!?


当然、忘れ去られていた女の子は、この世の終わりみたいな顔になっていた。



「性悪女は好かんねん」



にいっと笑う、赤髪の彼。



……わざと?ほんとは覚えてんじゃない?

って思わされるような笑い方。



「い、行こう!ほら、咲妃!!」



いよいよヤバイと察したのか、彼女らは足早にここから立ち去ろうとした。

だけど本城咲妃だけは、気丈にケイジくんを睨みつけていた。


少しも臆することなく……彼女だけが。

彼を、豹のような目で見据えていた。



「いつまでも偉そうにしてられると思わないでよね。もうすぐ、思い知ることになるんだから」

「……あ?何言っとんねん、お前」



眉をひそめるケイジくんに、それ以上本城咲妃は何も返さず、くるりと体の向きを変えて取り巻き達と行ってしまった。

どこか不穏なセリフを、私達に突きつけて。


正直、ケイジくんにまで歯向かえる本城咲妃には、閉口するばかりで。

さすがギャルのリーダーだと思った。


そうして……ようやく、胃をキリキリと締めつけるような緊迫した空気から解き放たれ、私はつい大きなため息を吐いていた。


「小春、怪我はない?」

「私は全然平気、それよりももちゃんの方が心配だよ……大丈夫?」

「うん、大丈夫!小春が来てくれたから!!」


起き上がって制服についた土を払いながら、私は小春に笑いかけた。


心から、笑えたんだ。

小春は私にとって、かけがえのない存在。


それを今日、深く深く、胸に刻み込んだ。


彼女の強さを、芯の太さを、私は尊敬した。


とても頼りになる友達。


小春は私なんかより、ずっと強い子だった。



「ありがとう」



そう言うと、小春はほんのり頬をピンクに染めて俯き、「えへへ」と恥ずかしそうにしていた。


それから。



「ケイジくんも……本当に、ありがとう。ケイジくんがいなかったら私も小春も、どうなってたかわからなかった」



黙り込んでいる彼にお礼を言うと、小春も「あ、ありがとうございました」と続いた。


でもケイジくんは難しい顔をして俯き、無言のまま。

もしかして、さっき本城咲妃に言われたことで、何か思うところがあるんだろうか。


私達もどうしたらいいかわからず、彼の反応を待った。