「え……ウソ、なんで……ケイジくんが……」
動揺する取り巻きと、男達。
それもそうだ。
こんな場面で、風切慧次が出てくるなんて誰一人予測できなかったことだ。
校舎の影から現れた彼は、両手をポケットに突っ込み、こちらへとゆっくり歩いてくる。
昨日から本当にケイジくんはヒーロー的存在で、タイミング良く姿を見せてくれる。
だから、この時も安心しきっている自分がいた。
もう大丈夫だって、彼は救いの手を差し伸べてくれるって──気を緩めてしまっていた。
少しずつ狭まってくる、私とケイジくんとの距離。
そして、彼はすぐ傍で一度立ち止まり、取り巻き達に視線をやった。
途端に、彼女達の顔に緊張が走る。
その内の一人が、恐る恐る口を開いた。
「慧次くん、この子と知り合いなの……?」
ケイジくんは地面に這いつくばっている私に、ちらっと目を向ける。
だけどすぐに、視線を取り巻き達へ戻した。
「──関係ないわ」
その瞬間……私の期待は粉々に砕け散って、絶望だけが残った。
冷たい一言を置いて、彼は私達の横を通り過ぎ、去っていく。
私の考えが、甘かった。
やっぱり、彼も私をからかっていただけ……?
ハイジ達とグルだった?
ヒーローは、ヒーローじゃなかった。
ただの赤いヤンキーで。
希望は、遠ざかっていく彼の背中と共に小さくなっていく。
「なーんだ、ビビんじゃん。驚かさないでよね」
取り巻き達は緊張感から解放されたのか、顔を見合わせてクスクスと笑みを零している。
小春への制裁が、また再開される。
ダメだ
ダメなんだよ、私だけじゃ何にもできない
あなただけなの
たとえ騙されていたとしても
今、頼れるのは
あなたしか、いないの……!!
「ケイジくん、行かないで!!!」
出せる限りの声で、私の全ての思いをのせて
枯れそうになりながら、喉から絞り出した。
彼に
赤い髪の、彼に。
ケイジくんの足が、止まった。
最後の一押しを私は彼に、魂ごとぶつけた。
「お願い、助けて……!!!」
これでも彼の心が動いてくれないのなら、もう道はない。
細い糸のような、今にも切れそうな希望に縋りつく。
「はよ言わんかい」
たっぷり、間を置いて振り返った彼は……ハイジみたいな、意地悪な笑顔
見慣れた、笑顔。
まるで私が助けを求めるのを待っていたと言わんばかりの、イタズラな笑みだった。
私はぽかんと口を半開きにし、バカ面で彼を見つめるだけで。
「そのまま行ってまうとこやったやんけ」
身を翻し、挑戦的な目つきで悠々とこっちに歩み来るヒーローに、釘付けだった。
ついさっきの彼は、本気でどうでもよさそうな素振りで、私達を見捨てたんだと思わされた。
だけど今のケイジくんの眼差しを見れば、それすらも計算尽くだったかのようで……私を軽く混乱させた。
日陰にいる私には──
夕焼けの光の中にいる彼が、眩しかった。

