気まぐれヒーロー




「やめてよ、そんな酷いことしないで……!!」


押さえつけられている私を見て、彼女は本城咲妃の取り巻き達を押し退け、手を伸ばし──

地面に横たわる私を、ぎゅっと抱き締めた。

小春の腕の中で、彼女の心臓の鼓動がはち切れそうなほど脈打っているのを感じる。

訳がわからずそうっと視線を上げれば、その先には悲痛な色に染まった小春の瞳があった。



「こは、る……なんで?」

「心配だったの、どうしても心配で探したの……!!」



土まみれでぼろぼろの私を見つめる小春の目には、うっすらと涙の膜が張られている。



「ひどいよ、ひどい……なんでこんなこと……!!」



か細い声を震わせながら、小春は私を抱き締める腕に一層力をこめた。

私よりも小柄な小春の腕に抱かれ、彼女の温もりに少しだけ安堵を覚える自分がいた。

それはまるで……巨大な氷壁に阻まれ、立ち往生して凍える私に与えられた、一握りの炎のようだった。


救いのない闇に授けられた、一筋の光。


「あんた何なの?邪魔なんだけど」


力の入らない私を庇うように抱きかかえる小春に、取り巻き達の非難の声が降りかかる。


「卑怯だよ……一人にこんな大勢でよってたかって……!もう、ももちゃんを傷つけるようなこと、しないで!!」

「は?あんた何言ってんの?悪いのはソイツなんだよ。被害者は咲妃の方だっつーの」


小春は目に涙をいっぱい溜めて、毅然とした態度で彼女らに言い返した。

あの気弱な小春が、ケンカだとか争い事が大の苦手な小春が……派手な女の子達に凄まれても、引かない。

私はその小春の姿勢に目を見張るばかりで、彼女の横顔を食い入るように見ていた。


「何か勘違いしてるみたいだけどさあ、ソイツは人の男盗ろうとするような女なんだよ」

「ももちゃんはそんなことしない!!」



小春



「絶対にそんなことする子じゃないもん、私ずっと見てきたんだから!!ももちゃんはいつだって真っ直ぐで優しくて、人の気持ちをちゃんと考えてあげられる子なんだよ!曲がった事が嫌いで、強い心を持ってる。私だって、何度もももちゃんに助けられた。だから、そんなの嘘だよ!!」



小春……



「ももちゃん、私信じてるよ、ももちゃんのこと。みんなが何て言ったって、全員が敵になったって……私はずっとももちゃんの味方だよ。大丈夫だからね」



私、何も……言わなかったよね?


私は小春に、何一つ現状を話さなかった。


小春は何も、知らない。

知ってるのは、真相とは程遠い噂だけ。

なのに──彼女は、私を信じてくれていた。

私という人間を、疑わずにいてくれた。


人一倍恐がりなはずなのに……小さな体で守ってくれた。