気まぐれヒーロー




本城咲妃は一歩引いて、薄い笑みを浮かべながら私を眺めている。

まるで、ゴミを見るような目で。


彼女らの歪んだ連帯感を恐ろしいと思うと同時に──言いようのない怒りが、体の奥から沸き上がった。



「何度も言うけど、私は田川なんか好きじゃない。本城さんから盗ろうだなんて、一度も思ったことない。あんなヤツ、大嫌いなんだから!!」



悔しくてしょうがなかった。

謂われのない濡れ衣を着せられ、あんな男を好きだと思われているのがたまらなく屈辱的で。


私が私じゃいられなくなったのは、そんなくだらない理由じゃないのに……!!


いくら喚いたところで、彼女らが聞き入れてくれるわけないってわかってるけど、それでも言い返さずにはいられなかった。



「──お前マジうざい」



案の定、取り巻き達にとっては私の言葉は全て“虚言”でしかなかった。

誰かが冷たく言い捨てたのを皮切りに、私に暴力が襲いかかった。


「っ……、」



腹や背中、腕や足に次々と痛みが走る。

視界が揺れ、頭が重くなる。

蹲って懸命に耐えるしかなくて、歯を食いしばり、早く終わってくれるのを祈った。


どれくらいの時間が過ぎたんだろう。

そんなに、長くはなかったはずだ。


急に、攻撃が止まった。


全身のあちこちが悲鳴を上げて、息を整えることさえままならない私を、彼女たちは黙って見下ろしている。
体も心もショックを受けて、動くことができない。


冷たい沈黙の中で、誰かが私の髪を掴み、無理やり顎を上げさせた。



「お前の顔、もっと醜くしてやるよ」



抵抗する気力も削がれた私の間近に、男の顔があった。

田川の友達の、一人。

しゃがんでいる男はニタリと笑い、不意に手を上げた。

先端で赤く灯る火がちらつき、先から熱が揺れて見える。

灼熱を携えたタバコの先端が……顔面に迫ってくる。

複数に押さえつけられ、逃げることも避けることもできない。


げらげら笑う取り巻き達の声が、耳につく。



イヤだ……



イヤだ


怖い


誰か……!!




「やめて!!!」




その時だった。



叫びにも近い女の子の声が、空気を裂いた。それに反応し、男の手がピタリと止まった。


誰かがこっちに駆けてくる。足音が徐々に、近づく。

心臓が早鐘を打つ。



……なんで?



どうして?



どうして、ここに……?




「小春……!?」




血相を変えて走ってくるのは……小春だった。