気まぐれヒーロー




連れて行かれた先は、私が初めてケイジくんと出会った場所。


校舎裏の、草が生い茂る陰気な場所。

人目につかないそこには、先客がいた。


男が、二人。


一気に血の気が……引いた。


私が挑まなきゃいけないのは、本城咲妃率いるギャル軍団だけじゃなかったんだ。

これから何が起きるのかと思うと、震えがこみ上げてきた。


校舎で日陰になったそこには、本城咲妃含む女子五人と男子二人──そして、私。


七対一。


どう考えても形勢的に不利で、しかも男がいるっていうだけで逃げ腰になってしまう。

しかもあの男子、田川とよく一緒にいるヤツらだ。
田川と同じ、バスケ部の一年生部員。


でも今の彼らには、部活に励む健全な姿なんて一片もなかった。


しゃがみ込んでいる彼らの、手にしているもの。

小さくて細長く、先端から煙を揺らめかせているソレ。

ジローさん達といるとしょっちゅう目にするソレは……タバコだった。


愕然とした。

田川の友達も、ヤツと同様にこういう一面があったんだ。真面目を装って、裏の顔を持ってる。



「やっとゲストの到着か」



男達は白い煙を吐き出しながら私を一瞥し、腰を上げた。



「で、咲妃。俺らはどーすればいいわけ?」

「そうねえ……どうしよっかなあ」



私は七人に囲まれ逃げ道なんかなくて、悪意に満ちた笑みを滲ませる彼女らの、格好の餌食だった。


突然背中を強く押され、地面に前のめりに倒れ込んだ。



「ムカつくんだよお前」



制服に付いた泥を払いながら顔を上げれば、数々の攻撃的な眼差しが降りそそぎ、身が竦む。



「咲妃の気持ち考えたことあんのかよ!」

「っつーかさあ……お前みたいなブスが出しゃばってんじゃねえよ」

「マジありえねーし。よく人の彼氏盗ろうとか思うよな」

「バカじゃねーの?お前なんか相手にされるわけないのにさ」

「図々しいよね〜無神経な女はタチ悪いよほんと。消えてくんない?」



次々と浴びせられる暴言に、耳が追いつかない。
ただ呆然とするしかなかった。


本気でそう、思っているんだろうか。

私が、田川を本城咲妃から奪おうとしたなんて。


本城咲妃本人も、彼女らにそれが“真実”だと話したんだろうか。

それを信じて取り巻き達も、喋ったこともない私を……ここまで憎めるのか。