昨日屋上で、ケイジくんは言った。
私の周りで何かが起こる、って。
それって……ジローさんのことだったの?
こうなることを、予測してた?
だとしても、私にはそんな風には思えなかった。
彼が言っているのは、そういうことじゃなかったような気がした。
ケイジくんの瞳は真っ直ぐで、どこまでも真剣だったから。
それが偽りだったっていうんなら……本当に人間不信になってしまいそうだ。
結局ケイジくんは一日中寝ていて、最後の授業が終わる頃には姿を消していた。
彼がいる間は、陰口を叩かれることもなく、嫌がらせを受けることもなかった。
昨日の放課後の一件があったからだと思う。
ケイジくんがいてくれたから、今日は過ごしやすかった。
だけど──
“花鳥さん、ちょっと付き合ってくれない?”
文化祭の作業も昨日で終わり、帰ろうと小春と一緒に教室を出た瞬間、私の前に立ちはだかったのは……本城咲妃と彼女の取り巻きたちだった。
冷たい口調に、冷ややかな眼差し。
仕方ない。
いつかはこうなると思ってた。
断りたいけど、逃げたと思われるのはイヤ。
それに……断ることを、彼女たちは許さない。
ついていくしか、道はない。
「……わかった」
「っ、ももちゃん!」
「小春、私は大丈夫」
「でも、……!」
“大丈夫”──この三文字は、呪文みたいなもの。
そう言えば、彼女は私を行かせてくれる。
わかってる、卑怯だって。
小春を巻き込みたくなくて、“大丈夫”の呪文で黙らせてしまうこと。
彼女が何も言えなくなるの、知ってるから。
ごめんね、小春。
これは私が仕掛けた戦いだから。
私が、何とかしなきゃいけないんだ。
いつも心配かけて、ごめんね。
「ついてきてよ」
くるりと踵を返し、ぞろぞろと連れ立って歩く彼女達の後に、私も続く。
心の奥では、怖くてどうしようもなかった。
何をされるのか、想像するだけで恐怖に潰されそうになる。
でも、もう後戻りはできない。

