「ももぉ、早く咲妃ちゃんに謝ったほうがいいんじゃないのぉ?アサミ知らないよぉ、どうなっても~」
……そういえばこの人もいたな。
素晴らしく空気が読めないタコ女王、朝美様。
早く海底にお帰り、とは言えないけれど。
「あーあ、誰かさんのせいですっごい空気悪いわ」
「ほんと、窓でも開けて空気入れ替える?」
私の席から少し離れたところで、本城咲妃の取り巻きたちが、大きな声で愚痴を垂れている。全部、私に聞こえるように。
あんた達が空気悪くしてんでしょ。
って言いたくても、言えない。
言ったところで反撃くらうのも、クラス中を敵にまわすのもわかりきってる。
私が何か主張したところで、嘘つき扱いされるんだから。
無視しとくのが、一番なんだ。
「ちょっとぉ、ヤバイんじゃん?ももぉ、どうすんのぉ?」
こそっと耳打ちしてくる朝美。
「どうもしない。私、何もしてないし」
とだけ、返しておいた。
小春も不安そうにしてるし、クラスの男子はニヤニヤしてる。
女子もギャル達に洗脳されて、揃って同じような目を向けてくる。
これ……いつまで続くんだろう。
いつまで、みんなに誤解されたまま嫌われ続けるんだろう。
私……何のために、戦ってるの?
私が守りたかったものは、何?
ハイジ達のため?
お兄ちゃんのため?
全部……全部なんだよ。
信じたいんだ、まだ。
信じなきゃ、立ってられないんだ。
憎しみや恨みとか、そんなどす黒い感情に飲み込まれそうになるんだ。
「うっす」
ラチのあかない状況で、教室に現れたのは
“彼”だった。
たこやきプリンスの、ケイジくん。
真っ赤な髪は今日もカッコよくキマっていて、イケメンで。
そして遅刻もせずに登校してきたのが意外すぎて、誰もが彼に注目していた。
「なに?お喋り続けてや?」
でもやっぱり彼は余裕たっぷりで、みんなの視線を集めていることなんか少しも気にしていない。
愛想良く笑って、自分の席についた。
どかっと椅子に座り机に足を乗せ、スマホをいじっているケイジくん。
そのうち「あー、あかん……ねみ~」と大あくびをして、大きな体を折り曲げると机の上に突っ伏し、寝てしまった。
みんな彼の一挙一動を見守り、口を開こうとはしない。話し声なんてちっとも聞こえない。
ケイジくんは……私にとっていつもいいタイミングで現れてくれて。
淀んだ空気を、追い払ってくれる。
それが偶然なのか、狙っているのか私にはわからない。
彼が何を考えているのか、読めない。
昨日のことがあって、彼らへの不信感は拭えなくて……それはケイジくんも同じで。
彼も、私を騙してるんじゃないかって疑いを、抱いてしまう。

