「ねー、タイガくん。タマちゃんって?」
透き通った声。
初めて、美女の声を聞いた。
「こないだ言ったろ、ジローのペット。二代目タマちゃんだよ。ジローに可愛がられてんの」
タイガはいつもの調子で、彼女に教えた。
別に普通なんだけど。
タイガがそういう風に言うのも、私がジローさんのペット扱いなのも今に始まったことじゃない。
でも……なぜか今は、ジローさんの“ペット”って言われるのが、嫌だった。
「え、うそ!あの子が!?」
途端に顔を明るくさせ、美女は私の方に駆け寄ってきた。
え、な、何!?何でこっち来んの!?
しかも何だか嬉しそうだし!!
身構える私の前に立つ、美女。
ふんわりと、いい香りがする。
私よりも十センチ以上は背が高そうな彼女は、腰を少し屈めて、私の顔を覗き込んできた。
「あなたがタマちゃん?かっわい~!!」
にこりと微笑んで美女が口にしたセリフは、予想外で。
まさか究極の美女の口から、お世辞にも可愛いとはいえない私に、『可愛い』なんて単語が贈られるとは思いも寄らなくて……硬直した。
「こんな可愛い子だなんて、思わなかったよ。ジロー、もっと早くあたしにも紹介してよね」
ジローさんの方に振り返り、美女はわざとらしく拗ねたように彼に声をかける。
そんな仕草すら、胸キュンだ。可愛すぎる。
どんな男でもコロっと落ちちゃうだろう。
そして、彼女はジローさんのことを“ジロー”と呼んだ。
初めてだった。
女の人に、ジローさんが呼び捨てにされるのを聞いたのは。
そこまで馴れ馴れしく彼を呼ぶ女子なんていないし、極度の女嫌いのジローさんが自分をそう呼ばせるまでに、女の人と親しくなるなんて考えられないから。
今、はっきりと美女は“ジロー”と……彼の名を、口にした。
「んな必要ねえだろ」
ジローさんは私達の方には顔を向けずに、低く呟いた。
「ほんっとあんたって男は、冷たいよねえ。こんな男がご主人様だなんて運悪いよね、タマちゃんも」
再び私に視線を戻す彼女は、目を細めて口角を吊り上げた。
……何だろう、なんか、嫌な感じだ。
この人に、『タマちゃん』って言われるのが神経を逆撫でする。
「ねえ、ジローとどんなことしてるの?つまんないでしょ、コイツ。喋んないし、寝てばっかだし、訳わかんないし。でも……」
次に、彼女の唇からこぼれ落ちた言葉は──
私から光を、奪った。
“意外とキス、上手いんだよね。したことある?ジローと”

