この時ほど、エロキングを恨んだことはない。
どうして、こんな場面で声かけてくるわけ?
余計なこと、しないでよ。
ムカムカしたって、タイガは私がそんなことを思ってるなんて知りもしない。
聞こえなかったフリして、このまま行こうか。
素知らぬ顔して、通り過ぎればいい。
だけど──
「オツカイの帰りか?今日はご主人様のおうちに戻んねえのかよ」
なおも話しかけてくるタイガのせいで、それもできなくて。
後に続く「ぎゃはは!」という笑い声も聞き慣れてるんだけど、今日は、今だけは……耳障りで仕方ない。
どうやら無視もできないみたいだから、腹をくくって彼らに顔を向けた。
イタズラな笑みの、タイガ。
特に表情に変化のない、飛野さん。
私に目もくれず、タバコの煙を燻らせるジローさん。
そして……例の女の人が、私を見つめてる。
視線が交じり合った瞬間、私の心はぎゅっと締め付けられた。
圧倒的な“格”の差を、身をもって思い知らされた。
自然な栗色の髪は艶やかで、毛先だけ緩く巻かれて胸元まで流れる。
前髪は顎より少し長いくらいでルーズに分けられてて、とても大人っぽい。
くっきり二重で、猫のようなアーモンド型の目に、色素の薄めな茶色の瞳。
女性らしい小さな鼻も、高くて形が良い。
ふっくらと艷めく唇。
ナチュラルなメイクが、もとの美しさをさらに引き立てていた。
“美”という字は、この人のためにあるんじゃないかと思えるほど。
私は……笑いたくなるくらい、正反対で。
月とスッポ……いや、ミジンコ。
輝く月は、全ての人に慈しまれ尊ばれる存在。
なのに、私なんか顕微鏡で確認してもらわないと表舞台に出てこれない存在。
しかも魚とかのエサになっちゃうし。最終的には糞とかになっちゃうんだろうし。
ピョコピョコ水中を泳ぎ回るしかないじゃんよ。
ふっ……どう足掻いても、この差は埋められん。
虚しくなった。
金、銀、黒の三人は制服ではなく私服で。
長身の彼らは高校生に見えないほど、大人びている。
けれど美女は制服姿なのに、妙に色気があって十分魅力的で彼らと釣り合っていた。
イケメンズとモデル並み……ううん、それ以上に綺麗な彼女に、周囲の視線が集まるのも当然だった。
“誰あれ、めっちゃ美人!!”
“ってか、男の子達もみんなカッコいー!エグすぎ!!”
“え、芸能人じゃないよね!?”
“やば、あんなキレイな子初めて見たわ”
“清蘭の制服だぜアレ。すげえ、お嬢じゃん”
大学生風のおねーさんやおにーさん達は彼らに目が釘付けで、色めきだっている。
別世界な、彼ら。
人の目を、興味を、ただそこに立っているだけで惹いてしまう。
私はそんな輪の中に入れないし、入りたくない。
比べられるの、わかりきってるもん。
“なんであんな女があそこにいんの”
そう思われることくらい。

