気まぐれヒーロー




綺麗なその人は、ジローさんの腕に自分の腕を絡め、親しそうに彼に話しかけて笑っていた。

ジローさんは顔を赤くすることもなく、鼻血も出さず、腕を振り払うこともしない。


その人に、答えていた。


相変わらず、無表情だけど……女の人を映す瞳は、柔らかかった。


見たくなんかないのに、絶世の美男子と美女で本当にお似合いで。

私の目には、あの二人しか……見えなかった。


ここに来なきゃ、よかった。


お使いなんか、引き受けなければよかった。


お母さんが豆腐さえ買うのを、忘れなかったら。

私がもう少し早く帰っていれば。


こんな光景を目撃せずに、済んだかもしれない。



そんな意味のない後悔ばかり、してしまう。



ショックだった。

ただ……胸が苦しかった。


私だけ、時間が止まったみたいな感覚で。

立ち尽くし、道路を挟んで向かい側にあるコンビニをずっと見つめていた。


彼らを、見つめていた。


足が、前に出ない。

そのうち、駐車場に停まっていた車から誰かが降りてきた。


私はその人も、知っていた。


黒髪長身の、純情料理人。

飛野さん。


ウルトラ方向音痴な、彼だった。


飛野さんを見て、思い出した。


あの黒い車は昨日、飛野さんが私を白鷹家に連れていってくれた時に、彼が運転してた車だ。


昨日みたいにジローさんとタイガを乗せ、飛野さんが運転して来たんだろう。


こんなところで、彼らが何をしているのか。それは私の知るところじゃないけど。


いつもと一つ違うのは……三人の間に、彼女がいる。それだけのこと。


だけどあの人の存在感は際立っていて、もとから目立ちまくりな彼らはますます注目の的だった。

飛野さんを交え、四人で談笑する姿から目が離せない。


ジローさんは話に加わらず、寡黙にタバコをふかしてはいるけれど。

美女と話しているタイガは、表情が緩みまくってる。飛野さんは、まあ普通。


誰、なんだろう……あの人。
ジローさんと、どういう関係なんだろう。


気になりだしたら止まらなくて、直視できずに目を逸らした。


わかるのは、彼女がジローさんにとって“特別な人”だということ。