気まぐれヒーロー




クラスに戻ると作業は終わっていて、誰も残っていなかった。

小春はどうしたんだろうと彼女の机を眺めているとき、スマホが震えたから画面を見てみるとちょうど彼女からメッセージが届いた。

『今日は用事があるから先に帰るね、ごめん』という文面に、頷いてスタンプを返す。


昼間はあんなに騒がしくて、ひっきりなしに大声が飛び交っているっていうのに、がらんとした教室は眠りにつこうとしていた。

寂しいとは思わなかった。
今の私には、人のいない教室の方が居心地がいい。

胸をえぐる声を聞かなくて済むのが、幸いだった。


ぼんやり過ごした後、私は鞄を手に取って学校を後にした。


日がだいぶ暮れて、茜色から紺色へと空がグラデーションになっている。

一人で歩いてるとまたスマホが震えて、今度はお母さんからメッセージが来ていた。


『帰りに豆腐買つてきて』


……買い忘れたのね。

そして、未だに小さい『つ』を打てないのね。


仕方がない。
遠回りになるけどスーパーに寄り、そこで豆腐を購入した。

外に出れば、遠くの方でバイクのうるさいエンジン音が重なりあい、街全体に響き渡っていた。

この頃、やたらと大きなバイクが何台も街中を走り回っている。

前までは、こんなことなかったのに。

何か物騒だ。

まあ私には関係ないかと思って、ふと斜め向かいのコンビニに視線をやった。


駐車場に、見たことのある黒い車が、一台停まっていた。

フルスモークの、車。


そして──


コンビニの前には、銀髪と金髪の姿があった。



ドクンと、一度胸が大きく高鳴る。



辺りが薄闇に包まれていくなか、コンビニの煌々とした明かりのせいか、彼らの姿がやけに眩しい。

まるで、真っ暗闇のなかの、一つの松明のようだった。


ジローさんは、タバコを吸っていた。

タイガは……女の人と話している。

その女性は制服を着ていて、私の学校のものではなかった。


あれは……私立の、超お嬢様学校の制服だ。
デザインも凝っていて可愛くて、女子ならみんな憧れる。

その制服を身に纏った女の人はモデル並にスタイルが良くて、とんでもなく綺麗な人だった。

時が止まったように、目を奪われた。


通行人がちらちらと、男女問わず視線を送るほどの美人だった。


そして、その人はタイガのもとを離れ……ジローさんの傍に歩み寄った。

彼を見上げ、微笑みかける。



胸がざわついて、息が詰まりそうになる。


見ちゃいけないものを、見た気がした。