「……ケイジくんは、アイツとは違うって思ってたのに。そうやって私をからかうとこ、ハイジとそっくりだよ。そんな顔してると余計にそっくり!」
私も嫌味をこめて、プリンスにお返ししといた。
すると彼はニヤニヤするのをやめて、驚いたように目をぱちっと見開いた。
私の言った言葉の“どれか”に、反応するように。
「違う?俺とハイジ、どう違う?」
「え?んっと……なんていうか、ケイジくんの方が大人って感じがする、けど……」
真面目に聞いてくるケイジくんに、私も真面目に答えた。にも関わらず、彼はぼーっと私の顔に見入っていた。
たこやきプリンスに直視され、さすがに恥ずかしくなってきた。
私、何か変なこと言ったんだろうか……。
「……ふーん、なるほどな~。ももちゃん、なかなか見る目あるやん」
ちょっとしてから、ケイジくんは満足げな表情をみせ、にっと口の端を吊り上げた。
何かよくわかんないけど、プリンスはご機嫌になったらしい。
「何なの?タコ焼き一年分プレゼントとかはやめてね?毎日タコ焼き食べるのはちょっと飽きるというか、いくら何でもそれはタコさんが可哀相というか、朝美が可哀相というか……」
「何でやねん!タコ焼き屋ちゃうて言っとるやろ!ほんでどっからアサミちゃん出てくんねん」
本場のツッコミを受けてしまった。
ケイジくんは楽しそうにひとしきり笑った後「ほなな」と言って、今度こそ屋上から去っていった。
嵐みたいだった。
突然現れて、険悪だったクラスの雰囲気を一人で変えてしまい、私にも不穏ともいえる言葉を残していった。
……ケイジくん、もしかして……私が陰で色々言われてたあの時、助けてくれたの……?
彼が一言発しただけで、言葉の暴力は止んだ。
今日、彼が私に伝えたかったのは、何だったんだろう。
相変わらず、彼らの行動や言動には謎が多い。
だけど、ケイジくんに救われたのは事実だった。
私の身の回りで、何かが起こる。
彼はそう言った。
これから、それを頭に入れて生活しなきゃならないなんて……。
どうしろって言うの。
隙を見せちゃいけないってこと!?
もうアレ?移動もホフク前進とかじゃないといけないの!?
毎日がサバイバル生活!?
……疲れる。自分に疲れる。
嫌なこと、いっぱいあるもん。
田川と本城咲妃のことも、周囲に誤解されてるのも。
解決策なんて見つからないし、これからどうなるのかなんて一つもわからない。
先が、見えない。
深くため息を吐き、胸いっぱいに空気を吸い込んで、深呼吸をする。
落ちかけの夕日が、景色を黄金色に染めていく。
屋上から見える街並みが、茜色に燃えていた。
黄昏時の世界は、哀愁を漂わせる。
まるで、私の胸の奥を映し出すように──。

