気まぐれヒーロー




「ちょ、ちょっと待って。意味がわかんないんだけど。っていうか……なんかそれって、脅しに聞こえるんだけど!?」


そうだよ、おかしいよ!

だって今のケイジくんの言い方だと、良くないことが起きるって言ってるようなもんじゃん。

何があるの?
この先……私に何が待ちかまえてるっていうの?

ただでさえ、今は最悪な状況なのに……。

これ以上、悪くなるの……?

わかんない、わかんないよ。
不安になるよ……。





「あんたは、ジローちゃんを変えた」





私の迷いを一瞬で断ち切るほどの強さを、その静かな一言に宿して、ケイジくんは言い放った。


研ぎ澄まされた刃みたいな彼の言葉が……私の心に、切り込んでくる。


ジローさんを、変えた?

私が?


ケイジくんの目に、縛りつけられる。
──鷹の如く、鋭く尖った目に。


動いちゃいけない。

じっとして、彼の話を受け入れるべきだと思わされた。



「……あの人は、ももちゃんに出会う前まで死人も同然やったからな。何見ても、何聞いても、心動かすことはなかった。毎日を、ただ仕方なく生きとるようにしか、俺には思えんかった。いや、俺だけやない……全員そう思っとった」



私と出会う前の、ジローさん……私の知らない、彼。



「けど、今は自分の意志でジローちゃんは“生きとる”。仕方なくやなくて、自分自身で。生きる意味を、見つけたんちゃうかな」



ケイジくんの紡ぐ言葉一つ一つが、胸に染みていく。


生きる……意味?


ケイジくんは普通に口にしたけど、それってとても大きなことだと思うんだけど。

それに私が絡んでるっていうの?


「ももちゃん、ジローちゃんのこと口数少ない思っとるやろ」

「……うん」

「あれでも俺らからしたら、めちゃくちゃ喋ってるほうやで」

「ええっ!あれで!?」

「ほんまほんま、ヒドかったで~前は。何喋りかけても、返ってくんの『おう』とか『ああ』とか『ん』とかやしな。しかも返ってきたらまだええ方。ほとんど無視やったもん。ジローちゃんが声出したら、雨降る前兆てみんな言ってたしな」


そう言って、ケイジくんは朗らかに笑っていた。