気まぐれヒーロー




ケイジくんはハイジみたいに私をからかうわけでもなく、興奮するでもなかった。

知らされたその事実を、もう一度確認するために、聞いてきたんだ。

人伝いの情報ではなく、本人である私に聞くことによって、それをちゃんと納得したくて。


彼は、ハイジと全然違う。


あんまり話す機会もなかったし、フザけた面しか見てなかったから、気づかなかったけど。

ハイジは子供っぽくて強引で、意地悪で何でもストレートにぶつかってくる。


でも、ケイジくんはそうじゃない。

フザけてるフリして、どこか一歩引いてる。

相手や周りの状況に合わせて、どうすべきか常に頭を働かせてる。


ハイジが直球型なら、ケイジくんは変化球型。

ハイジが『動』で、ケイジくんは『静』。


そんな気がした。

双子だって、いくら顔がそっくりだって、正反対で。

別々の人間なんだから、当たり前なんだけど。


「聞いたと思うけど、まあももちゃんのお兄さんは俺らみたいな輩の間じゃ、“伝説の男”になっとるからな」

「で、伝説!?」


お兄ちゃん……ついにレジェンドにまでなっちゃったのね……。

不良界のヘラクレスなのね……。

一体何してきたんだろう……何したら、ヤンキーの間で“伝説”にまでなれるんだろう……。

すんごく気になるよ。


「で……ももちゃんには理解できんやろうけど、そんな人の妹ってことは、ももちゃんが思っとる以上に俺らの間じゃ重大なことでな」


彼の指の間にあるタバコから、揺らめく煙が昇っていく。

私はミルクティーの缶を握りながら、ただそれを見つめていた。


ケイジくんの目が、私を射抜く。

どこまでも真剣な瞳に、強い瞳に、私は囚われていた。



「今まで通りにはいかへんくなる。周りが変わっていくことを、止めることはできひん。ももちゃんが望まんかったとしても……俺らとの関係も、変わることになる」



ケイジくんの声も。顔つきも。眼差しも。

今まで見たことないくらいに、厳しいものだった。


だけどそれも束の間で、また彼は笑顔に戻る。

お得意のたこやきスマイルに。


「なんて、ちょっと大げさやな。変わるんは“俺らの方”や。ももちゃんは、そのままでいてくれたらええ。ただ……これから先、確実に身の回りで何かが起こると思う。それを前もって、頭に入れといてほしいねん」


え……?

それってどういうこと?

ケイジくん……何、言ってるの?