気まぐれヒーロー




彼の方へくるりと体の向きを変えると同時に、ほっぺたにピタッと何かがくっつけられた。


「ひゃっ、」


キンと冷えた感触にビックリしてると、「はい」とケイジくんが“ソレ”を目の前に掲げてきたから、受け取った。


「あ、ありがとう」


英文字で側面に『milk tea』と印刷された、アルミ缶。

……買ってきてくれたんだ、ミルクティー。


「あの、いいの?これ……」


戸惑いがちに聞くと、ケイジくんは屋上のフェンスに寄りかかり、タバコの箱を制服のポケットから取り出して一本手に取った。


「いいも何も、ももちゃんのやん」

「そうじゃなくて、お金……」

「そこ気にするとこちゃうやろ」

「でも、」

「飲まんのやったら、俺が飲ませたろか?口移しで」

「……いえ、自分でいただきます」

「そか、それはざんねん」


屈託なく笑って、ケイジくんはタバコに火を点けた。


私に気を遣わせないように、してくれてる。

逆に彼に気を遣わせてしまったことが、申し訳なかった。

ケイジくんの家の事情を中途半端に知っているだけに、経済的に苦しいんじゃないかと思ったから。

だけどジュース代まで心配するなんて、そっちの方が失礼じゃん……。


心の中で反省すると気を取り直し、缶のプルトップを引いて開け、口をつけた。


よく冷えたミルクティーに、喉が潤う。

控えめな甘味が、緊張をほぐしてくれる。



「……昨日な、聞いてん。ももちゃんのこと」



白い煙を吐き出し、おもむろにケイジくんは話を切り出した。


静かな声色。静かな、彼の横顔。

微かに、鼓動が速まりだす。


そして彼の“話”の内容に、察しがついた。

薄々気づいてたけど、当たってたみたいだった。


「お兄ちゃんのこと、だよね」


ケイジくんがそれに触れる前に、私は彼に確かめた。

彼は意外そうに、ほんの少しだけ目を大きくした。


「……ハイジと会った?」

「うん。朝、アイツも同じこと言ってた」

「ああ、やっぱなぁ」


ふっとケイジくんが小さく笑う。


みんな、お兄ちゃんを知ってる。ケイジくんも。


そんなに、興味惹かれるんだろうか。

私が“花鳥響”の妹だっていうことが。


そんなにも、彼らにとっては重要なことなの?


「めっちゃ衝撃的すぎて、叫んでもーたって。けど……よくよく考えたら、納得できる。ももちゃんやったらな」

「……それって、どういう意味?」

「うん、何となく。会ったことないけどな、ももちゃんのお兄さんに」