気まぐれヒーロー



ケイジくんが突然そんなことを言ってくるもんだから、ビックリした。

彼に名字で呼ばれるのは、初めてだから。

だけどすぐに勘づいた。
それがケイジくんなりの、配慮だってこと。


「……わかった、行ってくる」


先生って、もしかして田川の件かな……。

やだな……どうせ私が悪いことになってるんだろうし。

何言われるんだろ……。

それでも無視するわけにはいかないので、私は教室を出て職員室へと足を進めた。


ケイジくん……そういえばどうして、わざわざ教室に来たんだろう。

授業終わってることくらい、わかってるはず。

文化祭の準備してるのも知らなかったみたいだし……なぜ?


でもケイジくんが来てくれて、少し救われた自分がいた。

耐えられそうになかったクラスの雰囲気を、彼が和らげてくれた。


学校の行事に、とてもじゃないけど自ら進んで参加するようには見えないのに。

今日出てきたのは、何か意味があるの……?


「あれ、センセーって……どの先生だろ」


ぼんやり考えながら歩いていて、ふっと疑問が浮かぶ。

担任か、それともあの憎々しい学年主任か。

大事なことを聞くのを忘れて、もう一度ケイジくんに尋ねようと踵を返すと──



「もーもちゃん」

「ぎゃああああ!!」



真後ろに、赤髪が立っていた。



「そんな驚かんでもええんちゃうん!?傷つくやん!」

「そりゃ驚くでしょ!?背後に赤くて大きなヤンキーがいたらさあ!?」

「ヤンキーて……俺、ももちゃんにそう思われてんの?めっちゃショックやん……。こんな真面目くんやのにぃ。勉強一筋やのにぃ」



どの口が言う。



「あんな、屋上行っててくれへん?話したいこと、あんねん」



いつの間にか教室から抜け出してきたらしいケイジくんは、少し真剣な顔つきで私に告げた。

彼の意図がいまいち把握できなくて、ぽかんとする私に、




「俺、今日ももちゃんに会いに来てん」




ケイジくんは爽やかに、笑った。