“花鳥さぁ、田川くんに相手にされないからって、今度はケイジくんに行く気?”
“っつーか鏡見ろよって話だよね”
“男好きなんじゃね?あんな地味に見せかけて”
大丈夫……耐えられる。
何言われたって、平気。
だって私、間違ったことしてないもん。
だから……耐えなきゃ。
笑ってなくちゃ。
そんな時。
一瞬、ケイジくんと目が合った。
心臓が、跳ねた。
私の心の内を見抜くような、真っ直ぐな眼差しに。
……私、ちゃんと笑えてたかな……?
「なあ、それ独り言?」
お絵描きは続行しながら、不意にケイジくんは教室の前の方でこそこそと話していた女子に問いかけた。
まさか自分達の話が聞こえていたとは思ってもなかったんだろう、彼女達はぎょっとしてお喋りをやめた。
再び無言に沈み込んだ、教室。
誰もケイジくんの問いには、答えなかった。
手元に落としていた視線を、真っ赤な髪の彼はゆっくりと上げた。
その目が映すのは、陰口を囁いていた彼女達。
「言いたいことあんなら、はっきり言えや」
低く、腹にまで響く声。
鋭く光る眼光に、背筋が震える。
彼の対象にはなってないこっちまで、鳥肌が立った。
さっきまでのにこにこしていたケイジくんは、そこにはいなかった。
同じだ……あの時と。
廊下で田川の友達を脅した時と、同じ。
怒りがみえる。
いつもチャラけてるだけに、その差には本当に圧倒される。
ケイジくんに凄まれた女の子達は完全に怯えきってしまって、青ざめていた。
女の子達だけじゃない、全員が彼の迫力に表情を強張らせていた。
だけどケイジくんのこと言われたわけじゃないのに、どうしてそんなことを……?
だって、私は知ってる。
ケイジくんは、むやみに一般の生徒達に絡んだりしない。
彼だけじゃない。
ジローさんを始めとする白鷹ファミリーはみんな、そう。
自分達が関われば、どれだけの影響を及ぼすか。
湖面に落ちる水滴のように、波紋がみるみるうちに広がっていく。
それは、止まることを知らない。
彼らはちゃんと、わかってる。
だから……理解できなかった。
ケイジくんの感情の変化が。

