ひそひそ話が止んで、教室は水を打ったように静まり返った。
先程まで私に非難の目が集中して、いてもたってもいられない空気だったのに。
誰も変えることのできなかった空気を……“彼”は姿を見せただけで、驚くほど簡単に一変させてしまった。
教室に来ることなんてほとんどなく、まして放課後の文化祭の準備中に“風切慧次”が現れるなんて、思いもよらなかったことなんだろう。
全員、目を見張っていた。
私も同じだった。
“うそ、ケイジくんじゃん!なんで!?”
“今日運イイかも~!あんまり見られないもんね”
“ハイジくん来てないのかなぁ。二人でいるとこ見たいよね~”
改めて認識することになる。
彼らの存在。
何もしなくたって、顔を見せるだけでみんな騒ぎ立てる。
この前までそんなことは当たり前のように、思ってた。
ただ漠然と、彼らは“そういう存在”なんだって。
人の興味を惹く、存在。
だけど、今……向けられる目の意味が違ったとしても、私も同じ境地に立たされて疑問を抱く。
私なんかよりも、ずっとずっと有名なケイジくん。
それこそ全校生徒が……ううん、この学校だけじゃない。
他校にだって、知れ渡ってるはず。
顔も名前も知らない、喋ったこともない相手が自分を知ってるって……どんな気分?
勝手なイメージを作られ噂が一人歩きして、それがみんなの間じゃ“本当”になる。
耳に入らないわけ、ないよね?
何を……思ってる?
「これ何なん?何してるん?」
床に広げられた、屋台に飾り付ける看板やら画用紙に描かれた色とりどりのイラストを目にして、ケイジくんは不思議そうにしている。
「え、いや、そ、それは……文化祭の出し物に使うやつで、今その準備してるんだ」
近くにいたメガネ男子が、ケイジくんに急に話しかけられめちゃくちゃキョドりながら答えていた。
そんなビビらなくてもいいんじゃないかいメガネくん、とひっそりツッコんだ。
髪赤いけどさ。
こないだ一騒ぎ起こしてたけどさ。
不良といえど、何もなしにいきなり殴ってきたりはしないだろうよ。
たこやきパンチをくらわされたりはさ。
「ふーん。文化祭て、そんなんあったんや。……ん?文化祭……そういやハイジが、何か言っとったなあ」
ちらりと私に視線をくれる、ケイジくん。
一瞬ドキッとした。


