誰もいない廊下を行けば、たどり着いたのは資料室。
田川はその前で立ち止まるとドアを開け、中に放るようにして私を押し込んだ。
その勢いでバランスを崩し、私は床に倒れ込んでしまった。
そんな私を見下ろすとヤツは薄ら笑いを浮かべ、後ろ手に資料室のドアを閉め、鍵をかけた。
両側には分厚い本がずらりと並べられた、鉄製の大きな本棚が立っている。
正面には不気味に口の端を吊り上げる、田川。
なんで
どうして
この男と、こんな所で二人きりにならないといけないのか。
「……何のつもり」
獲物を追いつめるように一歩ずつゆっくり歩み寄ってくる田川に、私は座ったまま後ずさるしかなく。
底の知れないこの男の気味の悪さに怖じ気づかないよう、精一杯強気に出るしかないと思った。
「──っは、はは、ははははは!!」
不意にその顔を歪めると、田川は可笑しくてたまらないというように急に高笑いしだした。
室内に笑い声が響く。
狂気さえ窺えるこの男の理解不能な行動に、私はその場に硬直するしかなく、笑い続ける田川をただ見つめていた。
「傑作だ、見たかあのクソ親父の低脳ぶりを!!何の疑いもなしに、俺の言うことを信じやがった!笑いが止まんねえよ、何もかもが思い通りにいきすぎて」
にたりと笑う田川の目に、射竦められる。
ゾッとした。
背筋に悪寒が走って、身震いしそうになった。
本当にこの男は、あの“田川大輔”なんだろうか。
みんなの前で見せる、爽やかな印象なんて微塵もなかった。
柔らかな口調、好印象の笑顔、周囲への気配り、誰にでも優しく接して、誰からも好かれる存在。
そんな“田川大輔”と同一人物だなんて、とても思えない。
「お前のことなんて、これっぽっちも信じる気ねえんだよアイツら教師は。それぐらい、わかってんだろ?何のために俺がアイツらの前で、イイ生徒を演じてるか……」
人間が……怖い。
この男が、ただ、怖い。
その豹変ぶりが私の想定の範囲を、遥かに上回っていて。
まさに、天使と……悪魔だった。
今のコイツは、人間の皮を被った悪魔。


