吐き気がする。
こんなにも人を憎いと思ったのも、憎しみという黒い感情に自分が染まったのも、経験なかった。
「そうか。田川、お前がそう言うなら今回の件はこれで終わりにしよう。花鳥……本来なら何か処分が下るとこだが、無しにしてやる。田川に感謝しろ。次からは、自分の行動には十分気をつけろよ。それじゃ二人とも、行っていいぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
いやらしい笑顔の教師に、田川が深々と頭を下げる。
その腐った光景に、怒りを通り越して笑いが零れそうだった。
何、それ……
何なんだよ、この茶番は。
フザけんなよ……どうせ面倒ごとを、早く片づけたかっただけでしょ。
これが教師のすること?
ロクに調べもせず、己の物差しだけで決めて。
何を解決した気でいんのよ。
何で私が、田川に感謝なんかしなきゃいけないのよ!!
こんなの、理不尽すぎるじゃない……!!
「待ってください、もう一回ちゃんと話を──」
耐えられなくなって、口を開いたその時。
言い終わる前に突然田川に腕を掴まれ、引きずられるようにして私は職員室から連れ出された。
「ちょっと……放してよ!!何すんのよ、触んないで!!」
「うっせーな。黙ってろ」
私の方を見ずに、さっきとは打って変わって低い声と雑な口調で、田川は一言発した。
腕に田川の指が食い込んで、痛い。そこだけがすごく熱い。
振り解きたいのに、強い力に逆らえなかった。
早足で歩いていく田川についていくのがやっとで、コイツの背中を睨むことしかできなくて。
田川は段々人気のない方向に進んでいき、少しずつ廊下が薄暗くなっていった。


