気まぐれヒーロー



「まぁまぁジローちゃん、ハイジも悪気があってやったわけやないねん……大目にみたってーや」


魅力が30%減した美形とイケメンをなだめるのは、ただ一人イケメンを保っているケイジくん。

ケイジくんとハイジを交互に眺めながら、もとの顔はこんなにもカッコいいのにハイジ……哀れねと心の中で彼を哀れんでいると、ハイジに睨まれたから慌てて目を逸らした。

無意識のうちに、私は同情の目をしていたらしい。


でもさ、私……悪くないよね?


強引にここまで連れてこられて、手は握られるわ抱き締められるわでセクハラのオンパレード……むしろ一番の被害者じゃんよ!


っていうか、男の子に手握られるのも、抱き締められるのも……全部初めての経験じゃないか私。


ちょっとちょっと!けっこう重要なことを、さらっと終わらせちゃったんですけどぉ!?



しかも相手はハイジ。



……冗談じゃねぇ!!




「私の初体験を返せえええ!!」




教室全体に響き渡る、私の大絶叫。

ハイジに掴みかかりながら。


叫んだ後で、激しく後悔した。



「ばっ……もも、急に何言い出すんだお前はよォ!?」



動揺しまくるハイジ。

それもそうだ。
だいぶと省略しすぎたせいで、とっても過激発言をぽろりしていた。


ハイジの胸ぐらを両手で掴んだまま、ハッとして周囲を恐る恐る見渡す。
ヤンキーのみなさんは、照れるように私から顔を背けた。


完璧に誤解されている。


ぎこちない動きで顔を前に向けると、ケイジくんが魚みたいに口をパクパクさせて、ハイジを指差していた。


よほど衝撃的だったのか、瞬きもしていない。



そして白鷹先輩の鼻が大惨事だ。



詰めていたティッシュがすっ飛ぶほどの、大出血だった。