気まぐれヒーロー




廊下を歩いてると、他のクラスの生徒達の悪意の込められた視線が襲いかかる。

私のことを話している。
眉と声をひそめ、みんなの間で行き交う話題なんてたった一つ。


真実を知らない彼ら達の思いつく原因は、恐らく“私の嫉妬”。


田川と、本城咲妃への。



「ももちゃん!」



突然私の名前を心細そうに呼ぶ声が耳に入り、そっちに顔を上げた。


「こは、る……」


ふわふわの髪を揺らしながら駆け寄ってきたのは、小春だった。



「どうしたの?何かあった?」



黒目がちな愛嬌ある瞳で、私を心配そうに見上げる。

彼女も騒ぎを聞きつけ、教室から飛び出してきたんだろう。

明らかな動揺が、その顔には浮かんでいた。


「ももちゃん……もしかして、泣いた、の……?」


赤く充血した私の目を見て、小春の表情がさらに不安を増した。

いつもと違う私の様子に、気づいたみたいだった。


「ねえ、何があったの!?誰かに何かされたの!?ももちゃ──」
「大丈夫」


おろおろして、取り乱した小春の言葉を私は無情にも遮ってしまった。


「大丈夫だから。何でも、ないから」


出かかった言葉を飲み込むしかない小春に、笑顔ともいえない笑顔を浮かべてみせる。

小春は、ショックを受けたんだろう。

悲しそうに下を向き、可愛らしい唇からは小さく「そう……」とだけ零して口を閉ざした。


私、何してんだろう。

大切な人を守りたいって、思ったのに……大切な友達を、傷つけた。

優しさを、蔑ろにした。

言ったら、心配性の小春は私よりも落ち込むんじゃないかって思ったから。

だけどそれが、逆に彼女を悲しませる結果になった。


考えりゃわかることじゃん。

友達なら、言ってほしいって思うに決まってんじゃん。


田川達に偉そうに言っといて、自分がこのザマだなんて心底呆れる。