“なぜ”
今日一日で、何回唱えたかわからない二文字。
白鷹ファミリーに絡まれた私の頭の中には、“なぜ”がうようよと漂っていた。
なぜ……私は恐いおにーさん達の、好奇の目に晒されているのかしら。
「…………」
教室に置かれた一組の、黒いソファー。
そのソファーは向かい合って置かれていて、それぞれ三人ぐらいは座れる長さ。その間に、小さめのローテーブルが配置されている。
白鷹先輩とケイジくんが隣同士に座ってて、その向かいにハイジと……なぜか私が座らされていた。
奇妙な組み合わせの、というより私だけが浮いている4人の姿を、遠目に見守っている20人ほどのヤンキーさんたち。
相変わらず、沈黙したままだった。
あの後……白鷹先輩が鼻血を出した後、それはもう凄い勢いで部下達が彼にティッシュを差し出していた。
白鷹先輩は慌てもせず一枚受け取り、くるくる丸めて細くすると遠慮なくそれを鼻に詰めていた。
美形が台無しだった。
さらに冷静に、無表情なまま先輩はハイジを思いっきり一発殴った。
私の頭のすぐ上を目に見えぬ速さで通過していった、右ストレート。
床に沈むハイジ。
立ち竦む私はこれが夢ならどんなによかったかと、視界の端でスローモーションのように倒れていく緑を捉えながら、途方に暮れていた。
「俺はよー……あんたのためを思ってやったんだよ」
居心地悪い雰囲気の中、ハイジが不意にぽつりと漏らした。
横目で彼を見やれば、こっちまで痛くなりそうなくらいに腫れ上がった左頬。
イケメンが台無しだった。
「てめえ、いつからそんなナメた口きくようになった」
足を組んでどかっと座っている白鷹先輩。
悠々とソファーの背にもたれハイジを見下すその様は、やっぱり不良の王様の風格が滲み出ている。
ただ、片方の鼻の穴にだけ押し込められたティッシュが、その風格を半減させていた。

