「お前さあ、何言ってんの?」
田川が、嘲笑う。
その隣で同じ表情で、本城咲妃も耳障りな笑い声を漏らす。
「なんでお前に、そんなこと言われないといけねえんだよ。関係ねーじゃん」
「関係なくなんかない」
「あ?」
ちょっと前までなら、『関係ない』って思ってた。
でももう、違うから。
太郎さんと話して、短い時間だったとしても、器の大きい人だってわかった。
自分の歩んできた道を、その手で何をしてきたかを振り返ることができる人。
その中で、自分が悪いと思ったことは悪いとちゃんと認めることができる人。
一本の真っ直ぐな芯が、ちゃんと通ってる。
お兄ちゃんのために、涙を流してくれた。
ハイジだって、そう。
無知で無防備な私に、それがどれだけ危険かってことを教えてくれた。
“知って、変わったか?お前のなかの兄ちゃんは”
人は、その人を飾るものよりも、その人自身を知ることのほうが大事だって、教えてくれた。
ハイジは何が大切か、わかってる。
「私は、ハイジも太郎さんも無関係なんかじゃない。噂だけでしか彼らを知らないくせに、酷いこと言うのはやめて。ちゃんと謝ってよ」
ありもしないことをでっち上げて、そうやってまた一つ噂が広まる。
あんた達が根も葉もないこと言うだけで、みんなが信じるんだよ。
本人の耳に入ったら、どんな思いをするか考えたこともないでしょう。
正面切って、彼らの前で今の言葉を言う勇気もないくせに。
「……っく、今の、聞いた?」
「聞いた聞いた」
二人は小刻みに肩を震わせ、互いに顔を見合わせて口元を歪める。
次の瞬間──
「ははははは、マジ笑えるって!!」
「あたしも~!!あはははは、お腹いた~い!!」
何が可笑しいのか、げらげら笑い出した。
神経を逆撫でする声が、私の鼓膜を支配する。
私は爪が食い込むほどに、拳を握っていた。
こいつらを殴り飛ばしたくて、しょうがなかった。
抑えて。
抑えて。
手を出しちゃダメだ。それじゃ何の解決にもならない。
間違ってない。
そう、自分自身に言い聞かせる。


