離れた場所で立ち尽くすしかない私に、ふとハイジの視線が流れた。
目が合い、ハイジの表情にわずかな動揺が浮かんだ……ような気がした。
あくまで、私がそう思っただけ。
実際は何も変化はなかったかも、しれない。
それくらいに、ハイジは私を意識した様子はなかった。
やがて視線を逸らすと軽く舌打ちし、田川の胸ぐらを掴んでいた手を、ハイジは力任せに払うようにして放した。
荒っぽく突き放され、田川はよろめいてバランスを崩し、廊下に尻餅をつく形になった。
ハイジの冷酷な目が、座り込む田川を鋭く見下ろす。
田川もまた、ハイジを睨み返していた。
私は本気で寿命が縮みそうな思いで、その言葉のないやり取りを見守るしかなかった。
何事もなく終わるように、と。
祈りが通じたのか、ハイジは田川に殴りかかることなく背を向け、廊下の向こうへ歩き出した。
やがてヤツの姿は消え、私は重くのしかかっていた圧力から解放され、ひとまず安心した。
けれど心臓はまだドクドクと高鳴り、初めて目にしたハイジの姿が胸を支配していた。
私だけじゃない。
他にも、今のハイジと田川の険悪なムードを目撃していた生徒達はいて、声を潜め顔を見合わせて話のネタにしている。
そこら中で囁き声が、共鳴する。
あっという間に、こうやって噂は広まるんだろう。
ハイジはそれだけ人の注目を集め、好奇心を掻き立てる存在なんだ。
そして、話の中心にいるもう一人の人物。
田川は、立ち上がると乱れた制服を整え、ハイジが去った方向をじっと見据えているようだった。
私は田川の少し後ろにいたから、その表情までは見えない。
そんな田川に駆け寄っていく、女の子。
本城咲妃。
今日も完璧なメイクに、短いスカートから見える太股。茶色の髪は丁寧にセットされ、いつ見ても隙がない。
私とは、正反対な女の子。
彼女は田川の顔を心配そうに上目遣いで見つめ、声をかけた。


