ほんとに何だったんだろう、アイツ。
真剣になったりチャラけたり、よくわかんないヤツ。
何がしたいんだろう。
あまりもたもたしてたら遅刻しちゃう。
今日も朝からハプニングがありすぎて、どっと疲れた。
魂まで一緒に抜けていきそうなため息を吐きながら、私も空き教室を後にした。
一歩足を踏み出した、その時だった。
「フザけんじゃねえよ!!」
男の、凄む声。
怒鳴るようなその声に、反射的にビクリと肩が揺れた。
この声……さっきまで一緒にいた、アイツのだ。
「ハイジ……!?」
私より先に教室を出たアイツが、廊下のど真ん中で一人の男子生徒の胸ぐらを乱暴に掴んでいた。
見たこともない、険しい顔。
怒りに満ちた、眼差し。
近寄りがたいくらいに、ハイジを取り巻く空気はピリピリしていた。
そして、その相手は……田川だった。
次から次へと私に休む暇も与えず、アイツは……やらかしてくれる。
何してんの?
なんであんた、田川なんかに絡んでんの?
あんたはそんなヤツにケンカ仕掛けるような男じゃ、ないでしょう?
いつだって偉そうで俺様で、子供っぽくて意地悪で。
でも、時々私より大人なところを見せて。
“よく覚えとけよ、俺の言ったこと”
ほんとは……賢い。
ねえ
自分の立場をわかってるでしょ?
あんたは自分がどういう位置にいるのか、わかってるはずでしょう?
何してるの?
あんたらしくも、ない。
「っ、ハイ──」
“ハイジ”
アイツの名を呼ぼうとしたのに、呼べなかった。
呼んじゃいけない気がした。
今のハイジは、私といる時のハイジじゃない。
にやって笑う、あのハイジじゃない。
私に見せない、“顔”。
昨日の夜の光景と、重なった。
ジローさんやタイガ、飛野さんの隠れた“顔”。
同じようにハイジにだって、私にだけ見せていない“顔”が、あった。
だから……声をかけることが、できなかった。


