気まぐれヒーロー




「けどよ、光があれば影が生まれる。それも強え光ってのは、それだけ濃い影を生み出すもんだ」

「私の、お兄ちゃんが……?」

「ああ。強ければ強えほど、上に昇れば昇るほど……妬むヤツも出てくる。みんながみんな、大人しく従うヤロウばかりじゃねえってことだ」


ハイジの声が一段と低くなって、攻撃的に響いた。


大きな権力を持てば、周囲に及ぼす影響は計り知れない。

ついていく人もいれば、そうじゃない人もいる。

お兄ちゃんに反感を持つ人だって、少なからずいたということ。



「太郎さんが鴉を解散させたのには、もう一つ理由がある。いや……そっちが、本当の理由なんだと思う。それが鴉のメンバーだった、ある一人の男の“裏切り”だったんだよ」



心臓を鷲掴みされたみたいに、ハイジの言葉が胸に響いた。



“裏切り”


たった三文字の中に潜む、重く、冷たいもの。

息苦しいほどの不快感が、じわりと広がっていく。



「鴉が壊れたのは、ソイツのせいだ。……お前の兄貴をハメたのも、ジローちゃんがああなったのも、その男が元凶だ」



思い出すのは、昨日の太郎さんの話。


ジローさんにトラウマを、傷を負わせたのは……自分とつるんでいた男だと。


それが、今ハイジの話に出てきた人?

ハメたって……どういうこと?


ますます謎は深まるばかりで、頭の中は絡まった糸のように混乱している。


でも、一つだけ確かなのは──お兄ちゃんの死に、その“男”が関わっているということ。



「俺が知ってんのはそんだけ。ジローちゃんやお前の兄貴に何があったのかまでは、わかんねえ。お前……太郎さんに全部聞いたんじゃなかったのか?」



視線を床に落とし俯いている私に、意外だとでも言いたそうなハイジの声が届く。


私が昨日太郎さんと会ったのは、この話をするためだったんじゃないのかと。


そう。そのはずだった。


けれど、ジローさんの意思で最後まで聞くことはできなかった。


私自身も……意気地がなかったんだ。


知りたいと願いながら。聞きたいと願いながら。

勇気がなかった。


聞きたいけど、聞きたくない。


そんな矛盾が、二つの思いが、私を迷わせた。