こんなこと、ハイジに言ったってどうしようもないのにね。
ハイジを困らせるだけなのに。
コイツにはムカつくしイライラさせられるし、意地悪もからかわれるのも嫌だけど。
ハイジにだって同じ思いさせたいって、絶対仕返ししてやるって思ってたけど。
こんなのじゃ、ないの。
ハイジにこんな顔させるつもりじゃ、なかった。
だってこれじゃあ……八つ当たり、してるだけじゃん。
「……お前の兄貴が何も言わなかったのは、お前を怖がらせたくなかったからじゃねえの」
「え……?」
ハイジの声は、落ち着いていた。
真面目な顔だった。
「お前に余計な心配をかけねえように、汚ねえ部分を見せねえように。……お前は、キレイな世界しか知らねえだろ。汚したくなかったんじゃねえのか。お前の世界を」
私の世界を……守るため?
怖がらせないように?心配、かけないように?
そう、だったのかもしれない。
暴力と血にまみれた世界……そんな話を聞いたら、私は怯えてしまうと。
わざわざ話す必要もないし、聞かせる必要もない。
それに……もしも私がお兄ちゃんの事情を知ってしまったら、お兄ちゃんを見る目が変わってしまってたかもしれない。
お兄ちゃんは、それを恐れてたのかもしれない。
だから太郎さん達との話を、面白可笑しく聞かせてくれてたんだろう。
それに、太郎さんもそうだった。
鴉のことを伏せていたのは、私への配慮だったんだろう。


