「死ねえええマリモ星人!!」
「おっ、朝から元気だね~ももちゃん」
「うるさい!!あんたなんかね、アルプスの少女じゃなくてカルピスの少年ハイジじゃないのよ!!」
「ぶははは!なんだそりゃ!!」
攻撃すべく椅子をぶんぶん振り回してみても、ハイジは余裕でかわして爆笑していた。
ムカついてどうしようもない。
どうにか一発でも、くらわしてやろうと思っていたのに。
振り下ろそうとした瞬間、手首をハイジに掴まれる。
さらに椅子は、私の手から取り上げられてしまった。
そして掴んだ私の手首をハイジが自分の方に引き寄せるもんだから、必然的に引き寄せられて、体が密着しちゃう。
離れたいのに、離してくれない。
「水くせえじゃねーの、ももちゃん。なんで言ってくんなかったわけ?」
「聞かれてもないのに、なんで言わなきゃいけないのよ。……っていうか、あんた……どうして私のお兄ちゃんのこと、知ってるの?」
みんなが知ってたように……ハイジもお兄ちゃんを知ってる。
それがなんだか、変な気分だった。
「そりゃ知ってて当然だろうよ」
「なんで」
「なんでってお前……わかってて言ってんのか!?」
「何を」
「“花鳥響”っつったら、あの『鴉』の十代目総長じゃねーか!!」
ハイジは信じられないとでも言いたそうに、目を見開いた。
……カラス?
……ソーチョー?
ソーチョーって……何デスカ……?
「そ、総長?村長……じゃなくて?」
「お前、そりゃある意味すげえな。何村の村長さんだ」
「ヤンキー村の村長さん♪な~んちゃって……」
身の程知らずな私は、可愛らしく小首を傾げてみせた。
実際、まったく可愛くなんかないけども。むしろイラッとすること間違いなしな、この仕草。
本当に可愛い子がやれば、『ったく、しょーがねえな~』なんてお許しが出るかもしれない。
だけど、そこは私だ。
私がそんな甘えたポーズをしてみせたって、不快度指数を急上昇させるだけだった。
例に漏れず、ハイジの目が凍った。
何にも反応してくれず、ただ一つため息をついて私に意味ありげな視線を送ってくるだけだった。
“なんてカワイソウなヤツなんだ”
“やっぱ病院つれてくべきか”
“待てよ、俺か。俺が悪いのか”
“コイツを救いようなくさせたのは、俺のせいなのか!?”
そんな、ハイジの心の声が入り交じった視線に気まずかった。
重い沈黙の後。
「あ、いや……すまねえな」
なぜか謝られた。
私の頭がイカレたのは自分のせいだと、思い込んでるみたいだった。
こっちまで申し訳なくなるのは、どうしてなんだい。


