「……飛野さん、コレ何なんですか」
「それは……まあ、その、黒羽にもらったんだけどよ……コレ通りに行けば三年の教室に着くってアイツが言ってたから」
「それで、自分の教室に行けると思ってこの地図信じて来ちゃったんですか……」
「……花鳥、ツッコんでくれるな。俺も今このやり切れねえ感情を、どこにぶつけたらいいのかわかんねえんだ」
飛野さんは遠い目をしていた。
どうも、イタズラ好きなあの金髪デビルは飛野さんの極度の方向音痴につけ込んだらしく。
自分の描いた地図通りに行けば教室にたどり着けるよ、と飛野さんに悪魔の罠を仕掛けたらしい。
そして人のいい飛野さんはそれを信用して、こんなうさんくさい以外何モノでもない地図によって、女子更衣室まで導かれてきたのだと。
私と飛野さんは、しばし無言だった。
「飛野さん……あの人との付き合い、真剣に考えたほうがいいと思います」
「……そうだな」
「行きましょ、私が三年生の教室まで案内しますから」
そして飛野さんと私は二人してため息をつきながら、その場を後にした。
こういうことは今までにも何回かあったと、飛野さんは話していた。
女子トイレに、危うく入っていきそうになったこともあったそうだ。
一回どこかのクラスの調理実習中の家庭科室に迷い込んだ時は、料理人の血が騒いだらしく、流れで『飛野さんのお料理教室』が開催されたという。
飛野さん……まず、その方向音痴……直した方がいいと思います……。
とりあえず飛野さんが覗き魔にされるのを未然に防ぐことができて、よかった。
私達は三年の階の手前で別れ、飛野さんは「ありがとな」と照れ臭そうに去っていった。
それから私も今度こそ自分の教室に向かおうと、廊下を歩いていた時──
「っ、」
空き教室の前を通り過ぎようとしたら戸が突然開いて、中から誰かの手が伸びてきた。
その手に腕を強く引っ張られて、私は無理やり空き教室へと吸い込まれることになった。
戸がまたピシャリと、閉められる。
教室は密室状態だ。
ほんとにいきなりすぎて、状況に頭が追いつかなくて。
混乱している私の目の前に立っているのは……
「相変わらず隙だらけなヤツだな。ぼけっと歩いてんじゃねえよ」
私の天敵、緑頭のハイジだった。


