まさかジローさんが後ろを向くだなんて予想もしてなかった私は、ビクッと肩を揺らしてしまった。
光の速さでスマホはポケットにしまった。
危ねええええ!!
もう少しで盗撮犯になってしまうとこだった!!
だってジローさんの画像、私も欲しかったんだもん!
ちょ、ちょっとくらいいいかなって思っちゃったんだもん!後ろ姿くらい……!
『それが犯罪者の思考ってんだよ!!』
『ひいっ!』
刑事がバンッと机を叩く。
私は取調べを受けていた。
白鷹次郎盗撮容疑で。
『まったく……お前さんで500人目だよ、ジロー盗撮犯は。誰一人反省しちゃいねえ』
窓辺に立ち、夕陽を眺めながら黄昏れるベテラン刑事。
いや、めちゃくちゃ撮られてるじゃん!もう写真集作れるじゃん!!
それはどうやったら手に入るんですか!?
『隠し撮り写真集見てニヤニヤしてるお前さんの写真を撮ってやるよ!!』
そこで目が覚めた。
盗撮ダメ、ゼッタイ。
ジローさんには幸い、気づかれてなさそうだ。
眠たそうなその顔には、昨日の太郎さんの愛のムチの跡が所々ほんのり残っていた。
黙ったままジローさんはゴソゴソとポケットを探って、何かを取り出した。
い、いったい何!?
こんなとこで、こんな大衆の面前で犬ごっこはできないわよジローさん……!!
ってドキドキしてると、彼はポケットから取り出した“何か”を握っている拳を、私の前にスッと差し出してきた。
“受け取れ”
そう言いたそうに見えたから、私は彼に歩み寄り、ぎこちなく手の平を出した。
何を渡されるの?犬用品?犬用のアクセサリー!?ねえジローさん、何なの!?
ジローさんが拳を開いたと同時に、ポトッと手の平に落ちてきたのは
耳セン。
……………。
……なぜに耳セン?なんのために!?
ジローさん、あなたどうして耳センなんか持ち歩いてるの!?
これで私にどうしろと……!?
「ジローさ──」
ジローさんに話しかけようとすると、彼は人差し指を唇に持っていき、“シー”というジェスチャーをしてみせた。
“喋るな”と。
それから耳センを指差し、“つけろ”というジェスチャーも続けた。
薄い笑みを口元に添えて。
意味がわからず、一人で戸惑っていると
「白鷹、今日はマジメに朝から出てきたのかよ。エライね~」
どこからか鼻につくようないやらしい声が、私達の間を裂いた。
「センパイに挨拶の一つもできねえのか、お前。シツケがなってねえんじゃねーの?自慢のアニキからのよォ」
何……?何なの……?


