「そんなにじっと見られると、恥ずかしいな」
自分が太郎さんを凝視していたことに気がついたのは、彼のこのセリフで、だった。
穏やかに目を細める、太郎さん。
「ハッ!ご、ごごご、ごめんなさい!!」
とんでもない速さで、正面に向き直る。
「冗談だよ」と、太郎さんは笑った。
ほんと、何してんの私……。
顔がめちゃくちゃ熱い。
顔だけじゃない、体中が。
私の方が恥ずかしい……。
「中途半端に話終わらせちまって、ごめん。まさかアイツが乱入してくると思わなかった」
前方からは視線を逸らさずに、おもむろに太郎さんは話を切り出した。
響兄ちゃんの、事故の真相。
いきなりジローさんに連れ去られた私は、その真実を太郎さんから聞くことはできなかった。
知りたいと、思ってた。
お兄ちゃんに何があったのか、腹を据えて聞こうと思ってた。
けれど、それをジローさんは遮った。
ジローさんは聞かせたくなかったのかもしれない。
三年前の事件のことを。
あんなにも苦痛に歪んで、悲しみと痛みに満ちた彼の瞳に……胸が張り裂けそうだった。
私が想像する以上に惨く、悲惨なことが、その身に降りかかったのかもしれない。
底無しの闇に、飲まれるように。
自分を助けて亡くなったお兄ちゃんへの、罪悪感。
後悔の念。
精神と肉体に刻まれた、塞がることのない“傷”。
私に聞かせるのは……残酷だと、思ったのかもしれない。
暴力の吹き荒れる世界じゃなく、平凡にぬくぬくと育ってきた私には。
太郎さんも、そう思ってくれていたように。
「……いえ、いいんです。私、大丈夫だと思ってました。何を聞かされても大丈夫だ、って。でも……思い込んでただけなんです。本当はもの凄く、怖い。ジローさんの目を見たら、知るのが怖くなったんです。ジローさん……それをわからせるために、ああしたんだと思うんです」
ジローさんは、お兄ちゃんを“永遠の憧れ”だと、言ってくれた。
ジローさんの心の中には、お兄ちゃんへの想いが今も息づいている。
「私が甘かったんです。だから……いつかジローさん自身が、話してもいいと思えるようになった日に……ジローさんの口から、聞きたいんです」
“なんで俺……こんな体になっちまったんだよ……!!”
いつの日か……過去の呪縛やしがらみから、抜け出すことができたなら。
幾重にも連なる鎖から、解き放たれる日が来るのなら
彼の、口から──。


