気まぐれヒーロー




ただ余りにも私の世界とはかけ離れすぎてて、現実味がなくて。

一般的なイメージに囚われて、聞くのが怖いけど。


っていうか、聞けない。確認なんてできない。


それに、太郎さんも聞かれたくないんだと思う。

お兄さんに忠告したのも、私への配慮。


そうなんだと、私に気づかせないように。
私を怖がらせないように。



「テツ、お前今日は帰れ」

「え、でも“太郎さん”、俺……」

「この子送ってから、自分で戻る。お前はもう休め」



『テツ』という名前らしい茶髪のお兄さんは、しどろもどろだった。

けれど太郎さん直々の命令だからか、『テツ』さんは太郎さんに頭を下げ、


「すみません、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。失礼します」


と豪邸の方に去っていった。


すれ違う時、私にも頭を下げてくれたから、私も会釈した。

この人はちゃんとした敬語使えるし、礼儀も弁えてるんだな、なんて感心してしまっていた。

『テツ』さんは、運転手か何かをしている人なのかな。

それに太郎さんの家に戻っていったってことは、『テツ』さんもここに住んでるの?


まだ若そうな人だったし、あのにーちゃん達のお仲間なのかもしれない。



「さ、どうぞ」



助手席のドアを太郎さんが開けてくれたから、恐縮ながらも私は乗り込んだ。

中に漂う、ほのかな色香を感じさせる匂いが鼻を掠めて、クラっとしかけた。

続いて、反対側にまわって太郎さんが運転席に乗ってきた。

やっぱり高級車だけあって、めちゃくちゃ座り心地のいい座席。


そして、車は緩やかに動き出した。



二人きりの車内。


何も流れてない音の無い空間に、トクトクと微かな胸の高鳴りがリズムを刻む。


夜の街が眩しくて、隣でハンドルを握る太郎さんからは、なんだか大人の色気がダダ漏れで……

知らぬ間に私は太郎さんの横顔を、バカみたいな顔で見つめていた。

口、半開きで。