「ももちゃん?」
私がついてきていないことに気づいたのか、太郎さんが振り向いて不思議そうに声をかけた。
完全に怯えきった私の顔を見て太郎さんは事情を察してくれたのか、イカツイにーちゃん達に顔を向けた。
「お前らもういいから部屋に戻れ」
彼のひと声に、みんな一斉に顔を上げて、私を見た。
頬を引きつらせる私にも、彼らは一礼して部屋の中に入っていった。
ハレルヤさんみたいに好奇の眼差しでジロジロと無遠慮に眺めるわけでもなく、あっさりと消えていった。
それも、太郎さんの存在があってこそなんだろう。
この家の主で、彼らの主でもある……太郎さんの。
何の変哲もない、冴えない私にもあんな人達が無言で頭を下げる。
不可解な眼差しや、軽蔑するような眼差しを突きつけてはこない。
そんな無礼はできないと、彼らはわかってる。
“してはいけない”と。
私が“太郎さん”と、一緒にいるから。
あんなにも凶暴そうな獣達に、有無を言わせない。
彼らは太郎さんや、太郎さんに関わる人間にどう接するべきかを、きっと徹底して教え込まれている。
太郎さんには絶大な力があるんだと、まざまざと思い知らされた。
「ごめんな怖がらせちまって。いつものことだから何とも思ってなかったけど、ももちゃんにしたらあんな物騒なヤロウがうじゃうじゃいたら怖えよな」
眉尻を下げて謝ってくれた太郎さんに、私はただ首を左右に振るしかなかった。
ワイルドで優しくて、大人な太郎さん。
でも野獣の王様で、不良の世界では有名人らしい太郎さん。
たぶん私の前とあのにーちゃん達の前とでは、見せる顔は全然違うと思う。
そんな“裏”の太郎さんを見てしまうような日が来なければいいなと、心から願った。
穏やかな表情の太郎さんに私も何とか笑みを浮かべ、やっとのことで白鷹家を出たのだった。


