「太郎さん、俺が行きますよ」
「いや、いい。お前はまだこいつらと“会議”があるんだろ?俺ももう少し、ももちゃんと話したいことがあるんだ」
飛野さんの申し出を、太郎さんは断った。
私は帰らなきゃいけないけど、飛野さん達はここに残るらしい。
“会議”って、いったい何の会議?
って疑問を抱いたところで、多分物騒なものには違いない。
聞いたところで意味不明なのは、わかりきってる。
「にしても、肝心のミッチーが来ねえと始まんねえよなぁ。さっき南高行った時もあの人いなかったしな。どこフラフラしてんだ」
若ダンナは立ち上がるとソファーに歩み寄り、ジローさんの対角線上の位置に腰を下ろした。
タイガもまた、テーブルに無造作に置かれているタバコを手に取り、ジローさんと同じように吸い出した。
ジローさんは、相変わらず口を閉じたまま。
タイガに言葉を返すことはしなかった。
「ももちゃん、行こうか」
「あ……はい」
太郎さんに促されて、彼の後を追って部屋を出る。
出て行くとき、ちらっとジローさんに視線を送ってみたけど……
彼は私の方を、見向きもしなかった。
「……お邪魔しました。おやすみなさい」
挨拶だけはしときたくてそう言うと、タイガは片手をあげて笑って見送ってくれた。
飛野さんには、「急に連れてきたうえに、こんな遅くまで付き合わせて悪かったな」と申し訳なさそうにされた。
私はそんなことないと、首を横に振った。
「いえ、貴重な時間をありがとうございました」
私にとって、お兄ちゃんの話を聞けたことも……
ジローさんのあんな顔を知ることができたことも、
どれもが掛けがえのないひとときには、違いなかったから。
飛野さんも、笑って「おやすみ」と言ってくれた。
だけど
ジローさんだけは、やっぱり何も返してはくれなかった。
それが心残りでちょっぴり寂しく思ったものの、私は部屋を後にした。


