ずるい。
心の準備もできないままに、キスするなんて。
重ねられた唇が、余韻を残して離れていく。
息を呑む間もなく、また鋭い眼差しに射抜かれる。
暗がりの中だから、顔が真っ赤っかなのはバレてないだろうけれど。
破裂しそうな心臓の音がジローさんに聞こえてしまいそうで、もっとドキドキした。
「目、閉じろよ」
私は違う意味で泣きそうになってるっていうのに、ジローさんは淡々とそんなことを言ってのけた。
自分が目を閉じる暇さえ、与えてくれなかったくせに。
思うんだけど、この人って何かにドキドキすることあるのかしら。
何があっても動じなくて、驚いたりしないし。
何にでもドキドキしちゃう私とは、大違い。
私、やっぱりジローさんにとってはペットなのかな。
今のキスも、ペットとのスキンシップみたいなもの?
わかんないな……。
ジローさんの場合、どこまでが本気なのか区別がつかない。
私のこと、どう思ってる?
……なんて図々しいこと、聞けない。
この氷のお顔で「犬」って返されたら、私は奈落の底まで堕ちてしまう。
「なぁ」
「……はい」
不意に呼びかけられた。
その形の良い唇から、どんなお言葉が言い渡されるのかと決死の思いで待った。
だいたい、予感してる。
ジローさんの「なぁ」が来れば、覚悟しといたほうがいい。
無茶苦茶な要求をされる合図だって、わかってるから。
「今日泊まってけよ」


