ふと、思い出したことがあった。
響兄ちゃんは小学生から中学生まで、バスケ部だった。
中学ではグレちゃってたから、ほとんど幽霊部員だったみたいだけど。
でも、バスケは好きだった。
「ジローさん……お兄ちゃんと、よくバスケしてました?」
誰だって、弱さを持ってる。
だけど他人には見せたくなくて、知られたくないから強い自分を装いたくなるんだ。
だからって強がったって、隠そうとしたって、しんどくなる時がある。
たまには、鎧を脱いだっていいじゃない。
溜め込んだ黒いモヤモヤを、ぶつけてくれたっていい。
「……響さんには、いつも1on1の相手になってもらってた」
ね。お兄ちゃん。
聞いてる?
よく話してたよね、『ニタロー』くんのこと。
『俺のツレの弟でな、面白えヤツがいるんだよ。目つきは悪ィし生意気だし、無愛想でよ。そのくせ人一倍負けず嫌いなんだよなぁ。バスケが好きでな、これがめちゃくちゃ上手ェんだ。まだ負けたことはねえけどな』
『へぇ、お兄ちゃんその人好きなの?』
『ああ、好きだな。ソイツ変なことばっか言ってくんだよ。本人は真面目っぽいんだけどな、すげえ笑えんだよなぁ。アイツ、名前なんつったっけな……太郎の弟だから、二太郎か?うん、たぶんそうだ、ニタローだ』
違うよお兄ちゃん。ニタローじゃないよ。
ジローだよ。ジローさん。
いっぱい聞かせてくれたよね、ニタローくんのお話。
全部、ジローさんのことだったんだね。
私……本当はずっと前からジローさんのこと、知ってたんだね。
「お兄ちゃんがジローさんのこと、よく話して聞かせてくれてたんです。……名前は間違ってたけど。その時のお兄ちゃん、心から楽しそうでした。ジローさんのこと、好きだって言ってました」
あの時のお兄ちゃんの笑顔、輝いてた。
そんなお兄ちゃんを見て、どんな男の子なんだろうって私までワクワクして。
「ジローさんにとってお兄ちゃんは……どんな存在だったの?」
まさかその男の子と、あんな形で出会うことになるなんて……思ってもみなかった。
「俺の、──永遠の憧れ」
それだけで、いい。
あなたから、それが聞けたのなら。


