気まぐれヒーロー



ああ……今日はよく押し倒される日だな、とか。


なんだ、まだ男が女を押し倒しちゃう時代なんじゃん、とか。

のん気にしてる場合じゃない。


どうでもいいこと考えてる場合じゃ、ない。


月明かりだけが頼りの暗い部屋で、私はベッドでジローさんに組み敷かれてて。


見上げた先にあるのは、これでもかというくらいに整った顔。



私の上に乗っかっているのは、銀色の狼。




美しい、野獣。





月光に照らされた彼は──


何もかもを忘れ去って魅入ってしまうほどに、綺麗だった。

彼そのものが、まるで一つの芸術品かのよう。




互いに交わす言葉もなく、時が静かに流れる。




怖かったはずなのに……


荒ぶっていた瞳が、色を失っていく。


ジローさんの目には、やり切れない想いだけが……くすぶっているように、見えた。




「……暴れねえの?」




何も言わず、何もせず、ただジローさんを見上げているだけの私に


彼が一言、呟いた。




「それとも、犯されてえ?」




私たち以外誰もいないこの空間で、ジローさんの仮面が剥がされる。



こんなセリフを口にする彼が、別人のようで。



また、新たに知る彼の一面に……



私は完全に、虜になっていた。



初めて覗くことができるかもしれない、彼の“素顔”に。



少しずつ、少しずつ剥がれていく仮面。



その下にあるあなたの顔は、何?



見せてほしい。見たい。

もっと、もっと。


何でもいいから、ぶつけてほしい。



ありのままのあなたを、見せつけて。



隠さないでほしい。ハダカのあなたを。