次郎……?
ジローさんを助けて、お兄ちゃんは死んだ……?
なぜ、そこに彼の名前が出てくるの
私の好きな人の、名前が──。
ただ戸惑いと混乱に支配され、何も考えられなかった。
太郎さんの言葉が頭の中で何度も反響し、虚ろな目で宙を見つめることしかできない。
“次郎を助けて、命を落とした”
頭を下げ続ける太郎さんをぼうっと瞳に映していると……ずっと埋もれていた記憶が、ゆったりと目を覚ました。
そうだ……
あの時……
お兄ちゃんのお葬式の日。
参列者の中に、ひとりの若い男の人がいた。お兄ちゃんと同じ歳くらいの。
『本当に……申し訳ありませんでした……!!!』
ただ一人、私たち遺族の席に向かって──
手と膝と頭を地面について、叫びに近い声でそう言った人。
全身全霊で、お兄ちゃんの“死”に謝罪を表した人。
今
彼と目の前の太郎さんが、重なった。
──あの人は、太郎さんだったんだ。
私は会っていた。
そうとも知らずに、この人と……会っていたんだ。
人が土下座をするということ。
それがどれほど重い意味を持つのか、完全にはわからない。
けれど、それがどれだけの決意と痛みを伴う行為かは、なんとなくでも理解できる。
それも太郎さんほどの人が、私なんかにここまでするのは……それだけ重要な意味があるんだと思う。
だから、聞かなきゃいけない。
彼が背負っている“罪の意識”を。
“奪った”と言った、“俺のせいだ”と言った……その意味を。
「太郎さん、顔を上げてください。そして、教えてください。お兄ちゃんと次郎さんに……何があったのか」
不思議と、私は落ち着いていた。
太郎さんはありったけの誠意を、示してくれた。
私にはそれが胸に迫るほどに、伝わったから。


