「ジローさん……どうしたんですか」
怖々と顔を、上げる。
「様子見に来た。なかなか帰ってこねえから」
相変わらずその顔に感情を出さないけれど、ジローさんの表情は穏やかだった。
さっき車を飛び出した時のような、静かな怒りは消えていた。
「そうですか……」
「……どうした。トイレが上手くできなかったのか?大丈夫だ、落ち込むことはねえ。俺がちゃんと教えてやるから。最初は誰だって完璧にはできねえもんだ」
声に元気のない私に、ジローさんは彼なりにその理由を解釈したらしく。
そんなちんぷんかんぷんな、励ましをくれた。
でも、それでいい。ジローさんらしくて、いい。
ジローさんも男だけど。ハイジの言っていた、“男”なんだけど。
「ジローさん」
「ん?」
「頭、ナデナデしてくれますか?」
「ん」
私の大好きな手で
大きくて温かい手で
優しく目を細めて
彼は頭を撫でてくれる。
すごく、安心するんだ。
ジローさんに撫でられると、心が暖かくなる。
やっぱり、私にとってジローさんは特別。
怖くなんか、ない。
無性に愛しくなって、恋しくなって
ぎゅって抱きついてみた。
ペットの権限を利用して。
私を可愛がってくれるから。ご主人様、だから。
振り払われることもないって、知ってるから。
ちょびっとズルイかもしれないけど、甘えたくなった。
思った通りジローさんは、何も言わなかった。
何も言わずに私の背に、そっと腕をまわしてくれた。
ジローさんの温もりを体中で感じて、安らぎにいつまでも満たされていたかった……
のに。
「てめえらイチャイチャしてんじゃねーよ!俺はデートも我慢したってのによォ!?カワイソウだろうが俺が!!俺をもっと気遣えよ!!っつーかメシなんだよ、早く来いよ!!」
ヒガミの塊と化したタイガのうるさい野次のせいで、幸せな一時はぶち壊された。
じゃあデート行けばよかったじゃんって思ったけど、さらにやかましくなりそうなのは目に見えてるので黙って従うことにした。


