気まぐれヒーロー



「ケイジ、俺はこいつをジローちゃんに会わせようと思ってんだけどよ」

「はああぁ!?ハイジ、お前正気か!!?」



響兄ちゃんの回想は、ケイジくんの出したすっとんきょうな大声によって打ち切られた。


び、びっくりすんじゃん!でかいよ声!!


気がつけば私は校舎の四階の隅っこにある、大きな教室の前にいた。
ここは空き教室や特別教室ばかりが並んでいるから、普段は人の気配がない。


静かな廊下に騒がしい声が、反響していた。


「ワクワクすんだろ?」

「知らんで俺」


にんまり笑うハイジに、ケイジくんが肩を竦めてみせる。


「ちょ、ちょっと一体何なの!?私どうなっちゃうわけ!?」


やだ、ほんとやめて欲しい。
絶対にハイジの笑みは、良からぬことを考えてる証拠。

こんな理不尽なことってなくない!?私だけ何も知らされずに、拉致されてさぁ!?

ハイジとケイジくん以外の不良の方々も、それぞれ顔を見合わせてそわそわしていた。
私より肝の据わってるようなこの人達のそんな態度に、嫌な予感をしないはずがない。


風切兄弟の口からたびたび出てくる「ジローちゃん」。
どうやらその人に、私は面会させられるらしい。


でも、「ジローちゃん」って、まさか、まさか……



「ハイジ、『ジローちゃん』って白鷹、先輩……?」


恐る恐る尋ねる。


「……お前、俺らは知らなくてジローちゃんは知ってんのかよ」

「やっぱジローちゃんにはまだまだ勝てんな~」


つまりこれは、肯定と捉えていいのか。


「そうなの!?ねぇ、そうなのね!?白鷹先輩なのね!!?」


かなりおろおろする私に、ハイジは冷たく「おう」とだけ答えた。

顔から血の気が一気にひいて、鼓動がやかましくなりだした。



 “白鷹 次郎(しらたか じろう)



ここ、北遥(ほくよう)高校の二年生。


私だって、耳にしたことはある。

その名を校内で聞かない日はないと言ったって、過言じゃない。



“ねぇ聞いた?白鷹先輩ってさぁ──”

“うん、かなりヤバいよね──”