気まぐれヒーロー



確かなこと。


だって、ジローさんの手の力が緩んだ。


お兄ちゃんの名に、彼の表情が一変した。



熱かったジローさんの手が……私の腕から、離れていった。



ゆっくりと私へ向けられるジローさんの瞳には、光がなくて。



虚ろで


寂しそうで


今にも泣きだしそうに、見えた。




どうして──

そんな目を、するの?



そんな目で、私を見ないで。



どうしようもなく乱されるのは、私の心なのに。



お兄ちゃんと、何があったの?

あなたは何を、知ってるの?



今……何を思ってる……?



私だけを、置いていかないで──。




「帰るぞ。時間がねえ」



飛野さんの言葉に、もうジローさんは反抗しなかった。


無表情で無感情な、その顔。


彼は完全に“自分”を隠した。



車へ戻る直前に、飛野さんがぽつりとジローさんに吐き捨てた。



“この子が大事なら、ちょっとは頭使え。それがわからねえほど、てめえはガキじゃねえだろう”



それに対してジローさんが言葉を返すことは、なかった。


車に乗ると、一人残ってたタイガは誰かに電話をしていた。相手は絶対女の子だ。


甘~い声だしちゃって。


私は意味わかんなくて混乱してるっていうのに。
ほんと、ノウテンキ。


だけど、今は……タイガのノウテンキな声が心地いい。

昼間の彼らを、思わせてくれる。バカやってる彼らを、思い出させてくれる。


私も、バカやってたい。
何だかんだいって、くだらないことやってたい。



そう思ってしまうほどに……ジローさんから垣間見えた“闇”は、深かった。



タイガの甘甘トークをBGMに、車はまた走り出した。