タブーを
冒したのかもしれない。
彼にとっての、タブーを。
ほとんど感情を顕わにしないジローさんが、苛立ちを抑えきれていない。
私にだって、悟られちゃうくらいに。
もしかしたら、お兄さんのことなんじゃないんだろうか。
飛野さんがお兄さんの話題をふった途端に、ジローさんの苛々が爆発したようだった。
「いい加減にしろ」
車からほんの数メートル離れた場所で、私達は止められた。
後を追ってきた、飛野さんによって。
隙のない──有無を言わさない、声。
飛野さんの目を見れば、口ごたえなんかできない。しようとも思わない。
それだけの、圧力があった。
私の腕をとるジローさんのその腕を、飛野さんが掴んでいる。
飛野さんへ視線を向けるジローさんも、怖いくらいに綺麗すぎて……背筋が震えた。
「なんでコイツを、あの男に会わせねえといけねーんだよ。あんなクソヤロウに」
ジローさんの言葉の端々から滲み出るのは、“憎しみ”だった。
“あの男”
“クソヤロウ”
兄弟を指すのに、こんな言葉を使う?
これが家族に向けるもの?
理由なんて、知らない。
でもジローさんを感情的にさせたのは……彼の“兄”なんだろう。
兄弟だからって、仲が良いとは限らない。
何か、確執があるのかもしれない。
「ジロー……この子は響さんの妹だ。“花鳥 響”の。太郎さんに会わせるのに、それ以上の理由がいるか?」
飛野さんの黒い瞳が、ジローさんを捕らえる。
ジローさんを、静めるために。
そのたった一言で、彼を納得させるために。
“花鳥 響”
懐かしいその名を
心に馴染んだ、その名を
私がもう一度呼びたかった、その名を
彼も……ジローさんも、知っている。


