「……何考えてんだよ飛野さん」
地を這うような、低い声。
口を開いたのはタイガではなく……黙り込んでいた、ジローさんだった。
機嫌の良くはなさそうなその声色に、身が竦んでしまう。
てっきりいつもの調子で「やっと帰ってくる気になったか」とか、ジロー節をかましてくれるかと思っていたのに。
今の彼は、どことなく殺気立っているように感じた。
「今日帰ってくんだろうが、アイツが。なんでそんな日にコイツを連れてくんだよ」
「帰ってくるからだよ。太郎さんが会いたがってる」
ただ口を閉じて、ジローさんと飛野さんのやり取りを聞いているしかなかった。
その中で飛野さんの口から発せられた、“太郎さん”という名前。
それがきっと、ジローさんのお兄さんの名前なんだろう。
ジローさんのお兄さんなんだから、タローさんでも納得できる。むしろ自然だと思う。
「会わせてどーすんの?これがジローの新しいペットです~って紹介すんのか?」
タイガがそうのん気に、飛野さんに話しかけたのと──
同時だった。
「っ、!ジローさ……」
「おい、ジロー!!」
急にジローさんが、私の腕を乱暴に掴んだ。
かと思うと、続いてドアが荒々しく開けられる。
ジローさんは私を引き摺るように車の中から連れ出し、そのままどこかに向かって歩きだした。
一切、私の方を振り向かず。
腕だけを、痛いくらいにしっかりと握って。
ついていくのが必死で、足がもつれそうになる。
急変したジローさんが、怖くて。何がなんだかわからなくて。
彼の背中を、銀色の髪を……見上げるしかなかった。
声をかけることすら、できなかった。


