気まぐれヒーロー




一人妄想しつつ、前を歩く緑の後頭部を睨んでみたけど、憂鬱には変わりなかった。


そして──
彼らを見ていると、思い出すことがあった。


お兄ちゃんだ。

私の、お兄ちゃんを思い出す。

私に全然似てなくて、カッコよくて優しかったお兄ちゃん。


もう……この世にはいない。


私より五つ上だったお兄ちゃんは、まだ小学生で幼かった私にはとても大人に見えた。

といっても、お兄ちゃんと過ごした記憶はあまりない。
中学生になると、お兄ちゃんは変わってしまったから。

ハイジ達みたいに髪を染めて、お父さんやお母さんに反抗して、あまり学校にも行っていないみたいだった。


当時の私は小学校低学年で、よくわからなかったけれど、中学校の先生がたびたび家に来ていたのを覚えている。


そのあと、決まって両親はお兄ちゃんを叱った。
でも、お兄ちゃんは聞く耳を持たなかった。


そして高校生になると、お兄ちゃんはほとんど家に帰ってこなくなった。

寂しく思うこともあったけど、たまに帰ってきたときは必ず私に顔を見せてくれた。

「元気か」とか「風邪ひくなよ」とか言って、優しく頭を撫でて微笑んでくれた。お菓子を山ほどくれたこともあった。


でもお母さん達に会うことは、避けていたようだった。


街を歩いていると、たまにお兄ちゃんを見かけることがあった。
お兄ちゃんの周りを囲む、ちょっと怖そうな人たち。

そう、ちょうど今私を連行している人たちみたいな。


でも私みたいに脅されているわけでもなく、お兄ちゃんは彼らと楽しそうに笑い合っていた。


ハイジ達みたいにタバコの煙を(くゆ)らせ、大きなバイクにもたれて。

本当にあの人は私のお兄ちゃんなんだろうかと思うくらいに整った顔を、仲間の前で崩して笑っていた。


とても、遠い存在だった。


いつかは……私がもう少し大人になったら、お兄ちゃんと対等に向き合えるんだろうか、と思っていたのに。



その“いつか”は、永遠に来なかった。