気まぐれヒーロー



そうして教室を出て、私は今何をすべきか考えた。


うん、ミスコンだミスコン。出場取り消ししてもらいに行こう。


ハイジの思惑通りになってたまるかってんだ。




「花鳥」




足を一歩踏み出したと同時に背中に被さったのは、私の名を呼ぶ声。

振り返れば、立っていたのは飛野さんだった。


至極真剣な顔つきの飛野さんに、自然と背筋が伸びちゃう。



「あの、どうしたんですか?」



まさかの飛野さんの登場に、心臓がトクンと僅かな音を立てる。

人気のないしんとした廊下に、私の頼りない声が響く。


飛野さんは静かに私の前まで歩み寄ると、真っ直ぐな黒い瞳で見つめてきた。


おもむろに開かれる、彼の唇。




「お前……響さんの妹なんだろ」




衝撃が、走った。



一瞬全身に、電流が走ったような感覚に陥る。


鼓動がドクドクと加速しだして、息をのむ。



「どう、して……?どうして知ってるんですか、飛野さん!?お兄ちゃんを知ってるんですか!?」



縋りつくような眼差しを、飛野さんに送っていた。


飛野さんの口から、お兄ちゃんの名前が出てくるなんて……夢にも思わなかった。



「……俺はあの人と会ったことはあるが、そこまで絡んじゃいない。近づけるような人じゃなかった」



この人は、お兄ちゃんを

知ってる。


儚げに微笑むお兄ちゃんの姿が、脳裏に蘇る。



誰とどんな風に外の世界で生きていたのか、何を思い何を感じていたのか。



最期のその瞬間に──何があったのか。



手を伸ばしたって届かない、叫んだって泣いたって……二度と返ってくることはないその答えを


永遠に彷徨うはずだった答えを



知る人が、いる。こんなにも近くに。



「もっと響さんに近かった人がいる。その人にお前を会わせたい。会いたがってるんだ、その人も」



私の心を見抜いたかのように、飛野さんが強く芯の通った、揺るがない声で……そう言葉を続けた。




「誰……ですか」




震えそうになる声を、懸命に抑える。


あの頃の想いが、溢れ出しそうになる。



飛野さんは少し間を置いて、はっきりと口にした。





「ジローの兄貴だよ」